オンボーディング Onboarding 「新卒社員」や「中途社員」が辞めない仕組みづくり
『オンボーディング』とは、新入社員をスムーズに社内に溶け込ませ、パフォーマンスを上げさせるための一連の仕組みづくりを言います。この冊子ではHR先進国であるアメリカ企業の事例も踏まえ、人材育成のための最新のメソッドを解説。
オンボーディングの具体的な取り組み方をご紹介しています。
HRの基本
公開日:2021.7.28
日本の企業が使っていた言葉を、海外で使われている言葉と統合して、別の意味を持たせることは少なくない事例です。昨今では、「HR」という言葉もそのひとつでしょう。HRは、『「H」uman 「R」esources』の頭文字をとった言葉です。各種メディアや、プレゼンテーションの場などで、よく聞かれるようになりました。しかし、あらためてHRという言葉について考えたとき、その意味を深く理解しているといえるでしょうか。
ここでは、HRを実際に仕事の面で活用するために、言葉の意味と仕事の役割について詳しく解説します。
目次
HRという言葉は、日本語の人事部とほぼイコールの意味として使われていました。実際に、HRの意味を辞書で引くと「人事」と訳されています。また、人事部・総務部の担当者の名刺には、「HR」と表記されていたり、SNSなどに「HRで~」などと書かれているのを見ます。
しかし、昨今では、企業の多様化・多組織化に伴い、「HR」という言葉が単なる人事の訳語ではなく、より広い意味を持つようになってきました。現在において、HRは、「人員をタスクをこなす力として考えるのではなく、企業が用いることのできる資本のひとつである」という考えに基づいて人材を活用するものを示して使われます。
たとえば、役職名としてHRという言葉が用いられたり、人事支援サービスを行う企業を指してHR業界というのがその一例です。
人事部の仕事といえば、人材の採用・評価・異動といったものですが、HRの機能はそれだけに限りません。HRの機能は「人員=企業の資本がより高い価値を創造できるサポートをする」ことにあり、そのためならば人事や総務の枠に当てはまらない仕事をこなします。
HRが担う役割は、多種多様なため、「これがHRの役割である」と、一文で定義することはできません。しかし、HRの果たすべき役割を大きく分けると、「人材の成長」「情報の管理」「人員のケア」の3つです。それぞれの役割について、以下で詳しくまとめましょう。
人材の成長は、HRという役職が果たすべき役割の中でも重要なものです。企業の持つ人材(Human)という資源(Resource)は、お金や設備、土地のように、持っているだけで価値が認められるわけではないからです。人材の価値を上げるには、本人の努力も必要ですが、HRがサポートして、価値を引き出すことが必要になります。
人材を成長させるのは、組織の命題です。しかし、人材の教育を現場に任せきりにしていると、目の前の課題を片づけることのみに注視するような、視野の狭い人材になるおそれがあります。それは、現場において育成を担当する上司が、自分の仕事もこなさなければならないために、場当たり的な指導しかできない傾向にあるためです。
そこで必要とされているのが、包括的な目線から人員の行く先を定め、成長させていく部署です。そうした役割を果たすのが、ほかでもないHRといえるでしょう。
人員に関する情報を統括して管理するのもHRの役割です。この役割は旧来から人事部が担っていた役割と同一ですが、HRでは人事部よりも広い範囲の視点と広範的な仕事が求められます。
たとえば、人員の能力・成果といった、旧来の人事部でも意識されていたものだけでなく、人員が苦手な分野、社内での人間関係、性格といった情報も含まれます。
こうした情報をHRが管理する必要があるのは、情報が多いほど、人員を活用できるからです。
人員が不調に陥らないように、サポートとケアを行うのもHRの役割です。人員は繊細なため、上司からの指摘、顧客からのクレーム、取引先との些細なトラブルでも、不調をきたす場合があります。心身の健康を医師に委ねる方も多いかもしれません。しかし、HRが果たすべき役割は、医師が介入する以前に、心身をケアできる仕組みを作ることです。特に心の不調は、本人が気づかないうちに少しずつ進行するため、フォローや日々のサポートは、HRに課せられた役割といえるでしょう。この点は、人事部がほとんど果たすことのなかった役割を、HRという言葉が救い上げている部分です。
具体的にHRという部署が行う業務は一体どのようなものなのでしょうか。ここでは、実際に企業で運用されているHRの業務内容に関して、その具体例を出しながら紹介していきましょう。
ただし、何度も述べているように、HRは全ての企業において同じ業務を行っているわけではありません。そのため、ここで紹介する業務内容はあくまでも一例であり、HRだから必ずしもこの業務を行う必要があるというわけではない、という点に留意してください。
HRの業務内容は基本的に人事部のものと同一です。具体的には人材の運用計画の立案と運営、人材の採用と育成、昇給・配置転換といったものが該当します。
こうした人員に関する情報の管理と運用は基本的にHRの業務内容ですが、必ずしも全ての役割をHRが果たさなければならないわけではありません。なぜなら、企業によってはこれらの仕事を別の部署に分割していることもあるからです。また、通常の人事部とは別にHRを設けている会社では、旧来の人事部の仕事は全て人事部に任せているケースもあります。
とはいえ、HRが至上命題としている人材の活用および価値の伸長を果たすためには、人事部の仕事も一部背負う必要があるのは事実です。そのため、こうした人事部の業務と被る部分は、全てを担っているわけでなくともサポート役として関わっていたり、あるいはHRが助言役として人事部を導く立場に置かれていることもあります。
HRは、社員がどのようなプロセスを辿って一人前になるのか、そしてどのように成長していくのかという道筋を作ることも業務内容に含まれます。
たとえば、研修制度の作成と調整は、社員を育成する重要な業務のひとつです。育成する対象は新入社員のみに限りません。業務に慣れてきた社員や、初めて部下を持つ中堅社員などに対しても、HRは絶えず成長を促していく必要があります。こうした人材の育成を通して、企業は人材という資源により高い価値を創出させることができます。要するに、お金をかけて新しい設備を導入することと同義です。そして、そのように高い価値を出させるためのサポートを行うのが、HRの業務内容の主たるところといえます。
HRの業務内容には、人材という資源を開発するための仕組みやルールの作成なども含まれます。最も多いのが、社内で採用される新しい人事評価制度の作成に関わることです。場合によっては、これまでの評価制度を排して、まったく新しい評価基準を導入することもあります。
もちろん、こうした仕組みの作成は企業上層との密接な連携が取れなければ成功しません。そのため、HRは時に経営陣とも連携し、立案した仕組みや計画のプレゼンテーションを行うのも役割といえるでしょう。
なお、HRが作る仕組みは評価制度だけに限りません。先述したメンタルケアの仕組みや、面談の仕組みなど、多数存在します。そして、そのたびに必要に応じて他部署と連携しなければなりません。いわば、そうした交渉もHRの業務内容に入ってくるでしょう。
HRとは、「人事」と訳される英語です。しかし、現代のHRという言葉には、人事という言葉には収まらない、人員を資本とし、企業にとっての価値とするという意味が込められています。
役職としてのHRには非常に多くの業務が存在しますが、そのいずれもが人的価値の発掘・創出という目的があります。企業としてHRを運用するときは、その一点を忘れないように気をつけましょう。
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