創業以来50年以上、企業の採用支援に携わり、現在は求人広告・集客広告、それらに付随する実務アウトソーシング・コンサルティング業務、人材紹介事業などを手掛ける株式会社 トーコンホールディングス。「とことん、ビジョンへ」というコーポレートメッセージを掲げ、多くの企業・店舗の経営課題と向き合っています。
同社は、2019年2月にNPO法人日本ブラインドサッカー協会(以下 JBFA)とパートナーシップ契約を締結し、ブラインドサッカー日本代表強化選手の日向賢氏を8月から社員として迎え入れました。今回は、経営企画室 ゼネラルマネージャーの前原加奈氏にJBFAとのパートナーシップ契約締結の背景や、ダイバーシティ推進、障がい者雇用のポイントについて伺いました。
TOKONが大切にしたいコミュニケーションの在り方とは︖
弊社の創業は1966年、日本は高度経済成長の真っ只中でした。戦後、日本が復興に燃え成長を加速させるなか、創業者の村井泰が「多くの人に仕事の機会と喜びを提供したい」という思いのもと起業を決意しました。加えて、「世の中に働く喜びを届ける我々自身が楽しく取り組んでいないでどうするのか︖」 との想いから、今の経営理念『仕事はワクワク楽しく』にたどり着いたと聞いています。
現在、弊社では多くの企業から経営に関するご相談を受けています。ご相談を伺っていると、時代の変化とともに人々に求められる能力といったものが大きく変わってきています。多様性・ダイバーシティの問題というと、「外国人」「障がい者」などを思い浮かべる方が多いと思います。しかし、実は時代の変化や移り変わりから生じる世代間のギャップなどは非常に身近にある多様性の課題です。「一人ひとりの個性や可能性を認め合い尊重しあう環境づくり」は大手企業だけでなく中小企業も含め、どの会社でも直面している問題だと考えています。
今回、JBFAとパートナーシップ契約の締結に至ったのは、JBFAの掲げる「視覚障がい者と健常者が当たり前に混ざり合う社会の実現」というビジョンに共感したことから始まりました。
JBFAではビジョン浸透のため、ブラインドサッカーの体験プログラムを、小学校などの教育現場には授業として、一般企業には研修として提供しています。実際に弊社でもブラインドサッカーの体験会を行ったのですが、その体験のなかで私たちは、「コミュニケーションとは何か」を深く考えるきっかけを得ました。
上司・部下、部署を超えたコミュニケーション不全に悩んでいる企業は多くありますが、この悩みの主な原因は「自分の当たり前の基準を相手に一方的に期待してしまっている」ことだと感じます。「伝える」ではなく「伝わる」ためにはどうすればいいのか?相手を想う正しいチームワークとは何か?そうしたダイバーシティの根本の問題に対する答えが、ブラインドサッカーを通じてわかると確信し、今回JBFAとのパートナーシップ契約に至りました。
ダイバーシティそのものを目的にするのではなく、ダイバーシティを通して自社のビジョンを実現することが重要
現在、弊社では障がいを持つ社員が一緒に働いています。
一人は、視覚・聴覚ともに障がいをお持ちです。ホールディングス全体の経理・総務などを担当する部署で、請求書や契約書などの書類整理や仕分けなどをお任せしています。とても正確で、丁寧に仕事をする方なのでミスがありません。この方の仕事ぶりを見ることで、周囲の社員は自分の仕事を振り返り、見直す機会をもらっています。また、仕事の進め方や依頼の方法において障がいを考慮することは、「出来る・出来ない」、「得意・不得意」が誰にでもあることと同じであり、相手の個性を踏まえて仕事を進めていく一環だと学ぶことができました。
もう一人は、視覚に障害を持っているブラインドサッカー男子日本代表強化選手で、現在はWebアクセシビリティ(視覚や聴覚、PCやスマホの操作にハンデを持つ人たちが、問題なくWebサイトに掲載された情報にアクセスできるようにすること)をコンサルティングの一環として提供する仕事などに関わってもらっています。弊社としても、障がいのある方と共に働くノウハウがまだ豊富にあるわけではありません。なので、どういったお仕事をお任せできるのか、細かくすり合わせながら働いていただいているという状況です。
お二人とも業務上、部署が異なる社員と関わることが少ないため、社内SNSなどを活用して、自ら情報を発信しています。たとえば、障がいの種類にはどんなものがあるか、障がい者スポーツのこと、社外での活動などについて投稿したりしています。その投稿には、普段関わりのない社員からもコメントがつくなど、お互いを知るうえでとても役立っています。また、通勤になれるまでということで、駅からオフィスまでの行き来の介助を社員が交代で行っているのですが、この行き来の間にする何気ない雑談が交流のいい機会になっています。
こういった弊社の取り組みのお話をすると、「中小企業で障がい者雇用を行うのはハードルが高い」と言われることは多いです。マネジメントや指導に苦労するのではないか、特別な設備をつくるなど、大掛かりな対応を万全に整える必要があるのではないかなど、身構えてしまうのではないでしょうか。しかし、弊社でも特別なことをやるというより、まずは日常の中でどうすれば最適なのか、などを一緒に考えながら進めています。
多くの経営者の方に「うちもダイバーシティ推進のために、何か取り組まなければならない」という意識はありますが、「とはいえ、リソースが少ないから取り組めない」と考えて、諦めているケースも多いと感じます。
たしかに、中小企業では人数が少ないこともあり、ダイバーシティ専任の部署や担当を置くこと難しいと思います。さらに、世に出ている情報のほとんどが大手企業の事例ばかりで、なかなか自分たちの参考になるような規模の話も少ないです。そうなると、どうしても「自分たちが取り組むのは難しい」となってしまいます。
ですが、障がい者雇用に限らず、すべてのダイバーシティの取り組みは「どういう会社・職場にしていきたいのか」という経営のメッセージに集約されます。ダイバーシティそのものを目的にするのではなく、「こうありたい」という自社が理想とするビジョンに対して、現状とのギャップを埋める手段の1つがダイバーシティだと考えることが重要です。
もちろん社会貢献の要素もありますが、これからの社会を考えると、「多様性」や「ダイバーシティ」を自社の強みにしている会社こそが生き残れると思います。
まとめ
「仕事は楽しくワクワク」という経営理念のもと、ダイバーシティを推進し、障がい者と健常者が当たり前に混ざり合う社会の実現と、中小企業の障がい者雇用のロールモデルを目指している株式会社トーコンホールディングス。同社の障がい者雇用とその活躍に取り組んだ経験を聞いてみると、そのハードルは意外と低いようです。障がい者雇用はダイバーシティ推進のきっかけの一つとして、雇用したその後の「目指す会社像」や「会社が理想とするコミュニケーションの取り方」について今一度考えてみてはいかがでしょうか。