「仕事は楽しくワクワク」という経営理念を掲げ、創業以来50年以上にわたって、企業の採用・育成をトータルサポートしてきた株式会社トーコンホールディングス(以下トーコン)。前編では、日本ブラインドサッカー協会(JBFA)との提携をはじめ、中小企業のモデルとしてダイバーシティ促進に取り組んでいることや障がい者雇用を推進するにあたり、社内コミュニケーションをどのように行っているのかについて伺いました(前編はこちら)。後編では引き続き、経営企画室 ゼネラルマネージャーの前原加奈氏に「女性の働き方」に焦点を当てて、トーコンで女性のキャリア支援を充実させるようになったきっかけや、どのように女性のキャリアを推進しているのかについて語っていただきました。
目次
働きやすい環境は現場の声を真摯に受け止め、改善した結果の賜物
弊社では「従業員がイキイキと働ける環境づくりを行っていく」というメッセージを社内外に向けて発信しています。その一環として、女性の活躍は大きなテーマです。弊社の女性従業員の割合は常に約6割で推移し、世の中一般より高い割合かと思います。女性の比率が高い分、出産・育児などライフステージの変化が大きい女性がそこでキャリアを断絶させないことが業績にも大きな影響を与えます。だからこそ、女性が働き続けられる環境の整備は数十年前から取り組んできました。彼女たち一人ひとりのライフスタイルに合わせた働き方ができるように、他社の施策に目を向けたり、社内の意見に日ごろから耳を傾けたりしています。
弊社で女性従業員への支援について大きなきっかけとなったのが、2006年、ある女性営業からの起案です。もともと女性従業員が数多くいた会社ではありましたが、その中心となっているのは独身または子供がいない従業員でした。「母」となった後、それまでと同様に働き続けることは難しいと考え、結婚や出産のタイミングで退職する女性従業員も少なからずいました。しかし、彼女は自身の結婚を機に、「出産後も営業の仕事を続けたい」と他社の取り組みや世の中にどのような支援サービスがあるかを探し始めました。
彼女の行動をきっかけとして、私のほうでも「他にも今後の働き方に不安を抱える女性従業員がいるのではないか?」と考え、「女性が働き続けられる会社にするために何が必要か」という内容で全女性従業員にアンケートを取りました。すると、「営業で産休復帰後に活躍している先輩が少ない。本当に働き続けられるのかわからない」などの声があがってきました。女性比率が高いことだけでなく、多様なロールモデルがなければ不安になるのだということを気づかされました。
このアンケート結果や起案した営業の女性の動きもあり、社内向けに「ワークライフバランスについて学ぶ勉強会を実施するなど、本腰を入れて会社からのメッセージを発信していきました。そもそも従業員一人ひとりの声に耳を傾けるという姿勢を大切にする風土だったこともあり、結果として職種を問わず、産休・育休を取得し復帰するというケースが増えていきました。
改めて、現場の環境を変えるには、現場の声が一番の原動力です。経営層が現場の声を真摯に受け止め、率先して改善を推進していったことが成功の要因だと思います。
多様な働き方を一緒に考えるのは、長く一緒に働き続けてほしいから
現在、弊社で行っている取り組みのいくつかをご紹介します。
- リモートワーク
- 社内SNS
リモートワーク
リモートワークは、希望者に対し一人ひとり話し合いのうえ、個々のミッションや実績をもとに目標を設定し、運用しています。業務内容や出社頻度などは個人ごとにバラバラです。「多種多様な働き方をしている人が多いと、会社側も管理が大変ではありませんか?」と他の会社の方からよく聞かれますが、一人ひとりと話し合う時間や管理にかける時間を惜しむことはありません。なぜなら、従業員の定着率が「競争優位」につながるからです。
弊社の業務は人手が多ければ成り立つものではなく、蓄積してきたノウハウや信頼をお客様は求めています。広告の仕事というものは、広告を掲載する段階で費用が発生します。弊社の担当者に対する信頼があってこそのビジネスです。長く同じビジネスに携わり、ノウハウやお客様の信頼を蓄積している従業員の存在が、弊社の経営に与える効果は計り知れません。産休や育休による多少のブランクがあっても会社や事業のことをよく知っており、それを語ることができる従業員の安心感は別格です。だからこそ、従業員が安心して長く働き続けられるよう、制度を整えています。
社内SNS
社内SNSについてはTalknoteを活用しており、部署や地域を超えてコミュニケーションのプラットフォームになっています。基本的には、業務上の情報伝達や自身のノウハウの発信などをメインに運用しています。たとえば、全従業員が週に1つ、皆に見てほしいエピソードを投稿する「情報共有」という仕組みがあります。翌週の全体朝礼では、社長自ら特に重要と判断した投稿をコメント付きで紹介します。これによって良い仕事が全社に共有され活用されるというものです。また、時には部活動の活動報告や仲間の誕生日のエピソード、リレーコラム(従業員が持ち回りで自己紹介を投稿する)などの楽しいコンテンツも行き交います。
普段なかなか顔を合わせられない地方支社や、産休・育休中の従業員なども多いので、社内SNSは弊社にとってなくてはならないツールとなっています。
人生100年時代、従業員の多様なキャリアを企業の活力にしていく
「女性従業員への取り組み」と聞くと、どうしても「子育てとの両立」を連想しがちです。しかし、女性のキャリアは多様化しています。すべての女性が「母親」であるわけでも、「母親」になりたいと思っているわけではありません。「結婚後もバリバリ働きたい」「親の介護と両立しながら働きたい」「結婚する予定はない」「不妊治療と仕事を両立させたい」など、いろいろな生き方や考え方があるはずです。
先日、女性が大半を占める社内のとある部署で、現在・未来の自分が担うさまざまな役割について語り合う場を持ちました。さまざまな年代の女性同士、普段ではなかなか話さない自分の「生き方」について会話をし、多くの参加者から「やって良かった」と反響があったようです。
このように、「女性ならでは」の話がオープンにできる職場はあまり多くないと思います。出産・育児や女性特有の病気の悩みなど、内容によっては恥ずかしくて切り出しにくい話題も多いものです。
センシティブな内容でも相談できるには、従業員同士の信頼関係が必要不可欠です。丁寧なコミュニケーションを積み重ねることで、悩みを抱えている人が質問しにくいことも聞ける安心感、ひいては職場の雰囲気づくりにつながると思います。こういった信頼関係の積み重ねが、男女問わず従業員が長く安心して働き続けられる環境をつくっていくのだと考えています。
こうした話は女性だけの問題ではありません。人生100年時代が到来すると言われる中、キャリアの問題は以前よりずっと複雑になっています。人生のマルチステージ化、とも言われていますが、こうした個々人の事情を無視してマネジメントを行うことは難しい時代を迎えているのだと思います。
一人ひとりの従業員の強みを活かし、伸ばし、しなやかに変化できる組織しかこれからの社会で生き残っていけません。ダイバーシティを「活かす」経営に、これからもチャレンジし続けていきます。
まとめ
会社のリーダーが自ら現場の声を社内施策に反映させたり、センシティブな内容でもオープンに話せるよう日頃からコミュニケーションを活発に交わしたりしている株式会社トーコンホールディングス。また、女性をはじめ、従業員が働きやすい職場をつくっていくためにコミュニケーションをとても重要視していることが印象的でした。同社が他社の取り組みを参考にして自社に合う形で取り入れているように、皆さまの会社でもSNSを使用したコミュニケーションやリモートワークの導入など、できることから少しずつ始めてみてはいかがでしょうか。