オンボーディング Onboarding 「新卒社員」や「中途社員」が辞めない仕組みづくり
『オンボーディング』とは、新入社員をスムーズに社内に溶け込ませ、パフォーマンスを上げさせるための一連の仕組みづくりを言います。この冊子ではHR先進国であるアメリカ企業の事例も踏まえ、人材育成のための最新のメソッドを解説。
オンボーディングの具体的な取り組み方をご紹介しています。
エンゲージメント
公開日:2021.1.28
終身雇用が一般的だった頃と比べ、働き方改革や、新型コロナウイルスの流行などによって、企業と従業員の関係は以前と違うものになっています。改めて、愛社精神とは何かについて考えてみましょう。
自分が属している企業を愛する気持ち、それが愛社精神です。愛社精神の強い従業員は、上司や同僚、部下と家族のように接し、自身が勤める会社に誇りを持つでしょう。そして、仕事にやりがいや誇りを感じ、会社をもっとよくしたい、成長させたいという思いがある従業員こそ、愛社精神があると言えるのではないでしょうか。
終身雇用制や年功序列が当たり前だった時代は、勤続年数が昇給や昇格につながったため、自分の人生と会社の成長を重ね合わせて「この会社のために働こう」という意識が育ちやすい状況にありました。と同時に転職に抵抗感のある働き手が多く、自社のルールから外れた行動が取りづらい空気感もありました。自社を愛し、そのルールに従って働くのが当たり前で、愛社精神は誰に言われずとも培われていくのが自然なことだったのです。
しかし、近年は成果主義が主流となり、転職も当たり前の時代となったため、以前のようには愛社精神が育ちにくくなっています。そういった状況にある現代、会社側に求められるのは、愛社精神が芽生えるような企業風土をいかにつくり出すかだと言えるでしょう。
愛社精神の強い従業員が増えれば、自社にとって多くのメリットがもたらされます。どんなメリットがあるのかを、次で詳しくご紹介していきます。
従業員の愛社精神が高まると、企業には次のようなメリットがあります。
(メリット1)従業員の自主性やモチベーションが高まる
愛社精神が高いと、自社の成長にやりがいを感じ、モチベーションを保ちつつ仕事に取り組むことができます。自社を良くするために、自主性を発揮してくれることも期待できるでしょう。
(メリット2)チームワークがよくなる
従業員同士が力を合わせ、刺激し合い、総力を結集しようとする効果が生まれます。その過程でコミュニケーションも活発になり、社内に一体感が生まれます。
(メリット3)生産性が向上する
自主性のある従業員が増え社内の一体感が高まれば、よりよいパフォーマンスが可能になり、自然と業績もアップします。愛社精神の高い従業員は、自社の成長を喜び、さらに自社を成長させようとするでしょう。
(メリット4)離職率が下がる
「この会社で働きたい」という思いは、そのまま離職率の低下につながります。急な人員補充に振り回されることも減り、必要なタイミングで必要な部署に計画的な人材採用を行うことが可能になります。また、採用コスト、教育コストも抑制できます。
このように多くのメリットがある一方で、いくつかのデメリットがあることも知っておいたほうがいいでしょう。愛社精神の高さによって生じるデメリットや問題点をお伝えします。
(デメリット1)会社への気持ちが裏目に出てしまう
会社のため」と長時間労働することでかえって体調を崩し、過労からパフォーマンスが低下してしまうケースが考えられます。また、不正に走ってしまう従業員は、愛社精神の強さが裏目に出てしまったということも考えられます。愛社精神が強い従業員が多い企業では、従業員同士が不正を隠蔽してしまう可能性があり、取り返しのつかない問題になってしまう場合もあります。
(デメリット2)ブラック企業の温床になる
影響力のあるポストに就いた人物の愛社精神が強すぎると、周囲に無理な仕事を強要する展開になる可能性があります。愛社精神を掲げられた状態では、指示を受けた側もやらざるを得ない状況になりやすく、ブラック企業化につながってしまいます。
(デメリット3)人間関係のしがらみが生まれやすい
愛社精神が強い従業員が多いと、人間関係も濃密になりやすい傾向にあります。昨今は、仕事とプライベートは分けて考えるのが主流ですが、愛社精神が強い従業員から私生活に干渉を受ける事例や、仕事に必要のない誘いを受けるといった問題が生じるケースが考えられます。
このようなメリットとデメリットを理解したうえで、自社に合った方法で、愛社精神を高めるための施策を講じていきましょう。
平成30年に内閣府が16~29歳を対象に行った調査では、72.2%の解答者が転職に肯定的だという結果が出ました。これは「定年まで同じ会社で働きたい」と望む若者が少ないことの表れだと言えます。同じ会社に長く働くことが一般的でなくなった以上、愛社精神が自然に育つとは考えにくい現状があるのは間違いありません。
終身雇用が崩壊した背景には、成果主義が台頭した他に、少子高齢化によって働き手が減って人件費が高騰したことも影響しています。また、大企業が従業員に早期退職を募る例もあり、終身雇用制が制度としての限界を迎えていた側面がありました。
そんななかで愛社精神を高めるには、経営陣が従業員と真摯に向き合うしかありません。具体的には次のような施策が考えられます。
(施策1)企業理念やビジョンを示す
従業員に、企業のあり方や目標を示し、自社を身近に感じてもらいます。会社の方針に納得できると信頼が生まれ、それが愛社精神につながります。朝礼やイベント時に伝達するほか、社内広報に力を入れる、社内ポータルサイトなどの活用が有効です。
(施策2)行動指針を定める
企業理念やビジョンよりも具体的に、企業側が称賛する行動や成果を定義します。「こうすれば会社側から評価される」ということがわかると、従業員は自分の仕事に自信が持てるようになり、それが愛社精神につながります。携帯可能なカードに行動指針を記載し、従業員がいつでも内容を確認できるようにしている企業もあります。
(施策3)従業員満足度を高める
従業員満足度を高めると「この会社のために働きたい」という意識が自然と高まります。そのためには福利厚生の拡充が有効です。各種社会保険への加入や家賃補助、シャッフルランチの実施、部活動への運営費援助など、従業員のニーズにあった内容を用意します。
(施策4)適切な評価制度の確立
会社側から正当に評価してもらえているという実感を持てれば、従業員は満足感を得て「より貢献しよう」という意識になります。その積み重ねが愛社精神にもつながります。経営陣の主導で、明確かつオープンな評価制度を整備しましょう。
(施策5)エンゲージメントを高める
企業側と従業員が、相互に貢献し合えるような関係で結ばれた。エンゲージメント。それを高める工夫をすることも効果的です。施策1~4を網羅しつつ、自社の成長と従業員の成長がリンクするような状況をつくっていくことで、愛社精神を一段と高められます。
現代は、愛社精神がなかなか育ちにくい時代です。だからこそ、従業員の性格ややりがいに注力した企業風土を整備して、愛社精神が高まるような企業経営をすることが重要。それと同時に、働き方が多様化している時代に合わせ、企業側が従業員一人ひとりを丁寧にケアしていくことも求められるでしょう。
経営陣が明確なビジョンを伝えて自社を身近に感じてもらうのが、その第一歩となります。メリットとデメリットを正しく理解して、自社にあった方法で愛社精神を高めていきましょう。
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