オンボーディング Onboarding 「新卒社員」や「中途社員」が辞めない仕組みづくり
『オンボーディング』とは、新入社員をスムーズに社内に溶け込ませ、パフォーマンスを上げさせるための一連の仕組みづくりを言います。この冊子ではHR先進国であるアメリカ企業の事例も踏まえ、人材育成のための最新のメソッドを解説。
オンボーディングの具体的な取り組み方をご紹介しています。
HR駆け込み寺
公開日:2020.9.18
目次
採用に力を入れる目的で、まずは会社の創立記念イベントを企画して社内を盛り上げようと、各部門から担当をアサインしてイベント企画プロジェクトを立ち上げました。しかし、専任の部署がないせいか音頭をとる者がおらず、各担当者とも「本業が忙しくてなかなかプロジェクトに手をつけられない」と活動に参加せず、なかなか進みません。一旦、総務部門が管轄部門として担当し始めたのですが、人事労務系業務も総務が行っており、タスクが多過ぎて結局手が回らない状態です。このプロジェクトを円滑に進めていくにはどのように取り組んだらよいでしょうか…。(サービス業・人事部担当:130名規模)
この相談もよくあるケースですね。新しくプロジェクトが立ち上がると、各部門からアサインされた人がたくさん集まります。だいだい本業と兼務してアサインされることが多いので、そうなると皆さんどうしても本業の方を優先してしまいます。それで、プロジェクトがなかなか先に進まない…という状況になりがちです。
あと、プロジェクトが進まない原因の一つとして「プロジェクトの目的そのものがあいまい」な状態になっている、ということがあります。たとえば、「働き方改革」、「新サービスの立ち上げ」などの場合、そのプロジェクトの目的が「まずはいろいろアイデアを出すこと」なのか「実行して社内に定着させる」までなのか…。何をどこまで進めることがゴールなのか明確になっていますか?
プロジェクトの目的やゴールが明確になっておらず、参加しているメンバーが片手間でやっている状態なら、そもそもメンバーはプロジェクトを発案した人と同じ考え、熱意に至っていません。参加している目的や意識もバラバラで、全員が自分のやるべきことを把握できていない状態であれば、目的が明確になっているそれぞれの本業の方を優先してしまうのは当然といえるでしょう。
このような場合に、人事としてまずやるべきことは、参加しているプロジェクトメンバーに「このプロジェクトがボランティアではなく評価対象になる」ということを明確にして伝えることです。ボランティアだと業務の優先順位が下げられて、みんな本業の方を優先してしまいます。なので、はじめの目標設定の時に、全体の業務のうち何割の時間をこのプロジェクトに割くべきなのか割合を定め、本業が忙しいことを理由にさせないようにするのです。そのプロジェクトが本当に大事なものであれば、いくら本業が忙しいとはいえ、プロジェクトの稼働割合の比率を高める必要があります。
もう一つお薦めしている施策は、初めの段階でプロジェクトの参加メンバー全員で自分たちがやるべきこと、向かうべきゴールを1枚の絵にまとめることです。ここは人事が先導してサポートしてあげるとよいでしょう。トップダウンや会社の経営会議などで、やるべきプロジェクトが立ち上がり、趣旨や目的を発案者が発表することで、参加するメンバーが決まっていきます。メンバーが決まったら、目指すべきゴールをはっきりさせ、全員が共通の認識を持てるように、みんなで1枚の大きな絵を一緒に作るのです。
この絵の中身がバラバラだったり、なかったりすると、やることがあいまいなままプロジェクトが始まり、成果物が出ないまま終わってしまいます。「プロジェクトメンバーになったから何かしなきゃ」とみんなで集まって会議をしたものの、「目的」や「それぞれのやること」がふわっとしていると、何も決まらないまま中途半端に終わって、時間ばかりが過ぎていくことになってしまうのです…。
そもそもプロジェクトを始める際には、何をすべきかという「What」の部分が決まっていないといけません。目指すべきゴールを決めて、焦点を定めるのです。それなのに、人はいろいろとやりたいことがあるから、あれもこれも…とついつい欲張ってしまい、最終的には何にもならないまま空中分解してしまうのです。だからこそ、あえて欲張らず相当焦点を定めて、目指すべきゴールをまずは一つか二つに絞るのです。そうしないと集中すべき力が分散してしまうからです。
これはプロジェクトに限ったことではないですが、人は自分自身が1年間で達成できることに対して過大評価しがちです。だから「あれもやろう、これもやろう」と考えて、どれも中途半端なままに終わり、何一つ達成できないまま…という結果になってしまうのです。
たとえば「新年の抱負」。お正月になると毎年、お餅を食べながら「今年はこれを達成しよう!」とはりきって紙にあれもこれも、といくつも目標を書くのですが、結局「絵に描いた餅」になって、どれも達成できないまま一年が経ってしまった…。思い当たる方も多いのでしないでしょうか(笑)。これは、先に述べたようにそもそも人が1年間で達成できることを過大評価する傾向にあるからです。それであれば初めから目標を一つに絞って、それに専念して達成できた方が余程いいですよね。
プロジェクトについても、同じことが言えます。「これだけはやる!」という目的を一つに絞った方が確実にやり遂げられて、成功する確率も高まります。欲張らずにできることから着実にやっていくのがよいでしょう。
ではどうすればいいのかというと、どんなに小さいことでもよいので成功体験を積み上げていくことが大事です。人は一年でできることは過大評価しがちですが、逆に三年、五年と長期にわたってできることに対しては過小評価してしまう傾向にあります。なぜなら人は一年以上先の目標を立てようとすると、未来の自分がイメージしにくく、自分がどこまでできるか想像しきれないからです。
「千里の道も一歩から」。少しずつでもやり続けていることで、大きな変化につながります。できることからササッと始めて繰り返していけば、何年かしてから振り返った時に「ここまで変えることができたね」と言えるようになるはずです。
これは企業文化にもつながるところですが、会社によっては結果はさておき「仕事をたくさんこなしている姿勢」がその人の評価対象となるため、あれもこれもやろうとどんどん仕事を作り出す風潮が多くの企業に見受けられます。
ここで変革できるリーダーがいれば、目標を一つに絞って「これだけは達成する」と決めて、業務における割合をはっきりさせられます。よく目標設定で複数ある目標をどれも20%、30%と同じくらいの割合で設定しているケースがあります。本当にそのプロジェクトが大事であれば、たとえばそれを50%にするなど、他の目標よりも比重を大きくすればよいのです。プロジェクトリーダーは「何が重要なのか」を明確にすることが重要です。そして、その仕事が本当に会社の成長や成果につながっているのかきちんと見極める必要があります。
この時に注意すべきポイントが、プロジェクトに参加すると決めて目標設定で割合も決めたのに、実際にやれなかった場合の評価についてです。「何も挑戦しない人より、挑戦する人の方を評価する」という考えもあるかと思いますが、やると決めた以上、結局何もやらなかったのであれば、それについてはダメだったという評価をすべきです。その人がすでにあまりにも非人間的な業務量を行うことになってしまっていた…という状況ならともなく、そうでなければ結局、本業をやっていたほうが評価されるので本業を優先してしまうからです。たとえそれがチャレンジだったとしても、やると宣言した以上やらなかった場合はそれなりの評価にせざるを得ないでしょう。
「みんなが積極的にチャレンジする組織」をつくると同時に「みんなが積極的にチャレンジをして成果を出すことにコミットする組織」にしていくべきでしょう。それこそ、経営者や役員、そして人事部の腕の見せどころなのではないでしょうか。
HRコンサルタント協会 理事。
外資系金融機関の人事部長を歴任。2013年にコカ・コーライーストジャパンの常務執行役員人事本部長に就任し、約30社の人事制度統合、企業文化改革、多大なるシナジー創出などを短期間で実現。電撃人事エグゼクティブとして名を馳せた。2017年10月にAsian Caesarsを立ち上げ、人事改革とグローバル人材育成のエキスパートとして、人事顧問サービス、エグゼクティブコーチング、講演など幅広く活躍。大手企業のリーダー達への変革指南で多忙な日々を送る。
人事のプロフェッショナルがあなたのお悩みにお答えします!相談したいことがありましたら、ぜひお気軽にご相談ください。アドバイスを本コーナーにて掲載いたします。
※匿名で受け付けしております。回答記事の掲載にあたり、ご入力いただいたお名前、勤務先などを掲載することはございません
この記事を書いた人