目次
今回のテーマ
少子高齢化時代の採用難をどう乗り越える?!
現代の日本は少子高齢化による人口減少に加え、働き方の多様化が進み、人材の確保が難しくなる一方です。特に新卒採用は、売り手市場、ルールの改正、慢性的な人手不足など、採用担当者の悩みはつきません…。優秀な人材の確保に向けて、どんなことに注意して採用活動に取り組めばよいのでしょうか。人事・採用のプロ、株式会社人材研究所 代表取締役社長である曽和利光氏にアドバイスしていただきます。
Q.新卒採用が長期化している中で、内定を出してからの辞退を避けるために学生とのコミュニケーションが重要だと思うのですが、具体的にどんなことをしたらいいでしょうか?
A.内定を出してからフォローするのでは遅すぎる!内定辞退を避けるためには、3つの選考プロセスの変更をすべきです。
そもそも、内定を出してから学生をフォローするということが、あまりよろしくありません。内定を出す前からフォローをしておくべきです。会社側が内定を出した瞬間に、学生の立場が急に上になります。内定を出してしまうと、企業側は入社を断ることはできませんが、学生は入社を断る権利を獲得します。内定を得た後に、学生が他の会社への就職活動に力を入れることは明白です。結果として、会社側は欲しい人材に「ぜひ来てほしい」という連絡をしますが、他社への入社を決めた学生からは連絡が全く来ないという状況が生まれてしまいます。
このような状況を避けるためにすぐできることは、選考プロセスにおいて3つの変更を加えることです。
1つ目は、内定を出す前から学生のフォローをすることです。具体的には、最終面接より前から学生一人ひとりに担当がついて、面接のアドバイスをすることです。なるべく、年齢が近い社員が担当になると、学生も話しやすくなります。「うちの最終面接にはこういう傾向がある」、「君の良さを伝えるために、こう伝えたほうがいい」など、一緒に最終面接を突破する同志として、学生に本音で話してもらうための心のつながりを作っておくことが重要です。
2つ目は、最終合格と内定を分けることです。そのためには、「最終面接」という言葉を使わないほうが良いと思います。「最終面接」と言うと、ここで合格した学生側からは「イコール内定」と受け止められてしまうので、結果的に志望度が低い学生に対しても、内定を伝えなければならない状況を生み出すことになります。ですので、会社の代表や人事責任者との面接を無理に最終面接と位置付けずに、学生側から見て数ある面接の一つと思ってもらうことが重要です。
実際に面接をしていると、「パーソナリティの見極めをもう少ししたい」、「優秀ではあるが志望度があまり高くない」といった学生に会うことがあると思います。社員数が多くない企業ほど、そのような学生のために数に限りのある内定の枠を空けることは避けたいところでしょう。ですので、この状況を解決するために、「会社として採用しても問題ない」という最終合格の判断は面接担当者に任せて、「学生の志望度を見極めて内定を出す」という判断は、学生と数多く接触している人事担当者に権限を委譲するという方法を取ってはいかがでしょうか。
採用しても問題ないという判断をもらった後は、人事担当者が学生の志望度を見たり、就職活動の相談にのったりしながら、内定を出すかどうか見極めていくとよいです。
3つ目は、最終合格はしたが、内定という雇用契約は結ばないという段階を設けることです。多くの会社が最終面接をした段階で、「内定 or not」という判断を下しています。 これでは、特に少人数しか採用しない会社だと、志望度が低い学生を採用することがリスクが出てしまいます。採用枠が埋まってしまい、志望度が高く、入社意欲の高い学生の席がなくなり、「あの学生を取っておけばよかった」という事態が起きかねません。
「内定」というのは本来、意思が固まった段階で入社のポジションを用意することです。最終合格から内定を出すまでの期間で、志望度があまり高くない学生に対しては、他に受けている学生の状況や、今の段階で席を用意しておくことはできない状況を丁寧に説明してあげます。「早めに決めてほしいけれど、意思決定が伸びるようであれば、その間に内定の枠が埋まってしまうかもしれない」という状況を説明してあげることで、学生側にも真剣に考える動機ができ、連絡がまったく取れなくなる状況が無くなります。その際に、学生に対して情報提供や意思決定のサポートをするという姿勢を同時に示してあげることも重要です。
これら3つのプロセスを改善すると、学生の内定辞退を防ぐことができるはずです。ただ、最終的には採用担当者のスキルが重要となります。信頼関係の構築、学生の考えや本音をいかに引き出すか、そういった情報を元に学生に適切な情報を与えられるか、どの学生にどの面接官をアサインするかなど、こういったスキルを伸ばすためにはトレーニングが欠かせません。これらのスキルを理解しても、実践できるかどうかは1~2年をかけて場数を踏むしかありません。今回ご紹介した3つのプロセスを改善すると同時に、人事担当者のスキルを上げるトレーニングをすることが大事です。
人事のセオリーの伝道師からの金言
内定辞退を防ぐには、「内定を出す前から学生のフォローをする」「最終合格と内定を分ける」「『最終合格=内定』ではないという段階を設ける」という3つのプロセスに改善することがポイント。ただ、最終的には人事担当者のスキルが必須となるので、スキルトレーニングも並行して行うことが重要!
Q.早期インターンシップを行うと、そこから会社説明会まで時間が空いてしまいます。どのくらいの頻度で学生と接触したらいいでしょうか?
A.インターンシップから会社説明会までの期間が空いてしまうのは、もしかするとターゲティングがずれているかもしれません。取りたい学生のターゲティングを見直しましょう!
インターンシップから会社説明会まで時間が空いてしまうという時点で、もしかしたら採用したい学生のターゲティングがずれているのかもしれません。就職活動で早期に動く学生は、早期に入社する会社を決めて、採用市場から消えていきます。
時間が経つにつれて優秀な学生は採用市場からいなくなるかもしれませんが、外資系やメガベンチャーを目指して早期から動いている学生に、他社の内定を持っている状態で就職活動を続けてもらうには、人事担当者にかなりの力量が必要とされます。そもそも、早期のインターンシップを行う必要があるのかどうかを考え直す必要があるかもしれません。
ここは発想を変えて、早期にインターンシップを開催するとしても採用市場から早く消えていく層に触れないようにすることがポイントです。例えば、早期に開催する採用イベントはHPなどの広報を通じて幅広く学生を集めるよりも、リファラル採用やスカウトメディアを通じて、あまり就職活動に意欲的でない学生にアプローチするのがオススメです。この方法を取ると、早期に消えていく学生へのアプローチ数が減り、早期インターンから採用につながらないという事態を防ぐことができます。
次に、上記のターゲティングを行ったうえでの接触頻度ですが、基本的には2週間に1回くらいは学生と何らかの接触を図ったほうがいいです。現在の就職活動は2週間程度で動きが変わるので、状況を確認する意味でもそれくらいの頻度がベストです。
ただ、その頻度で連絡していると話すことがなくなってくるため、学生から鬱陶しいと思われないための情報などが必要になります。そこで、別の会社の採用の相談にのってあげるのがオススメです。相談の中身としては、自己分析、会社選びの軸、ESの添削など、キャリアカウンセラーのようなことがあげられます。
このようなことができる関係をインターンシップ中に作っておくことが重要です。ただ単に自社の仕事や事業の内容を学生がインプットするだけでは、インターンシップを行う本来の目的の半分しか果たしていません、今やインターンシップは、人事担当者と学生が仲良くなり、関係性を作る場にもなっています。人事担当者から学生に連絡したときに鬱陶しく思われるような関係性しか構築できていないのだとしたら、そのインターンシップは失敗だと言っても過言ではありません。
1度関係を作った後は、人事担当者の方から自社の社員に会わせてみたり、イベントに呼ぶなど、いろいろな情報を提供してあげてください。どのようなコンテンツであれ、人と人との関係を作り、信頼関係を築くことが採用では最も重要です。
人事のセオリーの伝道師からの金言
まず早期のインターンシップを行う必要性を考えたうえで、どの層の学生を狙うのかをターゲティングすることが大事。そのうえで、学生との接触頻度を見直してみましょう。インターンシップを開催するのであれば、自社の情報を伝えるだけでなく、参加した学生と仲良くなることができなければ真の成功とは呼べない!
今回の回答者
曽和利光氏 Toshimitsu Sowa
(株式会社人材研究所 代表取締役社長)
HRコンサルタント協会 理事。
大手企業の人事・採用部門責任者を務め、主に採用・教育・組織開発の分野で実務コンサルティングを経験。約20年の人事歴を活かし、多数の就活・面接対策セミナーの講師を務める。また著書も多数出しており、全国の人事担当者の愛読書となっている。
HR・人事に関する課題・お悩みをお聞かせください
人事のプロフェッショナルがあなたのお悩みにお答えします!相談したいことがありましたら、ぜひお気軽にご相談ください。アドバイスを本コーナーにて掲載いたします。
※匿名で受け付けしております。回答記事の掲載にあたり、ご入力いただいたお名前、勤務先などを掲載することはございません