給与制度は、一度決めればそれで終わりではありません。創業時よりも社員数が増えたり、給与に反映したい点が変わってきたりすれば、おのずと給与制度の在り方も見直す必要があるでしょう。
しかし、給与制度は社員にとって重要な事柄であるため、改定には気を付けなければならないポイントがあります。今回は、給与制度の改定を検討しやすいタイミングや進め方についてご説明します。
給与制度の改定をタイミング・注意点
給与制度の改定は、検討しやすいタイミングがあります。主に以下の5つのタイミングが改訂を検討しやすいチャンスだといえるでしょう。
- 法改正時
- 組織変更時
- 賃金、時間共に会社側に余裕があるとき
- 代表者が変わったとき
- 創業年など、会社にとって切りがいいタイミング
最低賃金が上昇したなど、法改正が行われたタイミングは、給与制度の改定が必然となる会社もあるでしょう。また、社名変更や合併など、会社の組織が変わったタイミングも、給与制度を見直しやすい状況です。似たようなタイミングとして、会社の代表者が変わる時期も給与制度見直しに適切なタイミングだといえるでしょう。
たとえ労働者側にプラスになる変更であったとしても、一方的に変更せず、従業員側と相談して行うことが大切です。雇用契約書や就業規則に記載されている条件を変えなければならないため、きちんと説明やヒアリングを行いましょう。また、給与が引き下げられる変更は、合理的な理由があると判断されない場合、不利益変更とされ無効とされる可能性があります。一方的に変更しないよう注意しましょう。
なお、給与制度の改定には以下のメリットがあります。
<労働者側のメリット>
- 昇給目安が明確になり、モチベーションが上がる
- 社員間での不公平感をなくすきっかけになる
<会社側のメリット>
- 人件費の総額の予測が立てやすくなる
- 残業対策等、労働の生産効率について考えるきっかけになる
- 労働者側に明確に給与を説明しやすくなる
給与制度改定にあたり押さえておくべきポイント
給与制度を改定するにあたり、大切なのは以下の7つです。
- 諸手当について種類・適性数
- 会社への貢献度に応じた給与制度の設計
- 残業代と貢献度とのギャップの解消
- 管理職の残業代について
- 打ち合わせ時は議事録を作成しておく
- 就業規則・雇用契約書の更新を行っておく
- 告知期間、変更までの移行期間を設ける
諸手当とは、「家族手当」「住宅手当」「資格手当」等、基本給以外の賃金を指します。諸手当はあくまでもオプションであるため、必ず付与しなければならないものではありません。基本給でカバーしきれない特別な要素に対し、会社として給与を支払ってあげたいという場合に支給します。
とはいえ、あまりにも数を増やすと、管理が煩雑になります。中小企業の場合、適性数は3~5種類程度。もしも、現状の諸手当があまりにも多ければ、給与制度の改定・整備を機会にあらためて整理してみることをおすすめします。
諸手当が充実している会社は、求人募集をかける際に福利厚生の点でアピールできますが、多ければいいわけではなく、基本給と合算した月給・年収がいくらになるかといった点が大切だといえます。
また、管理職の残業代についても見直しが必要です。管理職になると労働時間ではなく成果や業績に対して給与額を決定し、残業代はなしとするといった会社も多いかもしれません。確かに、「管理監督者」であれば残業代の支払対象外として認められます。しかし、実は社員数が20~30人程度の中小企業の場合、管理監督者として認められるのは役員だけであるケースが多いのです。
役職手当が支払われている労働者を一律管理監督者として扱い、残業代を支払わないケースも見られますが、これは非常に危険です。
その他、給与制度を見直す際に気を付けておきたいのは、打ち合わせで議事録を取り、決定事項は速やかに就業規則、雇用契約書の内容に反映させておくことです。特に、打ち合わせは何度か繰り返し行われるため、都度議事録を作っておくと、言った・言わないといったトラブルを防げます。
新たな給与制度が決まったあとは、十分な告知期間を設けることも大切です。特に給与が引き下げられる労働者がいる場合、突然給与額が下がるのは生活に直結する重要事項です。労働者が生活設計を見直す期間とするためにも、予告期間を設け、新しい制度を開始するまでにゆとりをもたせておきましょう。
また、変更後も、一定期間の間は減額分の補填として調整給を支払うなど、労働者を救済する措置期間を設けることも検討しましょう。
社会保険労務士など、専門家の力も借りて検討しよう
給与制度は、労働者がもっとも気にする労働条件です。変更内容によっては退職につながる可能性があり、慎重に進めていく必要があります。
自社だけで話し合うのではなく、社会保険労務士など専門家に相談することもおすすめです。見直しが必要な理由、給与制度改定後の制度について説明できるよう、「何となく」で決めないようにしたいものです。