オンボーディング Onboarding 「新卒社員」や「中途社員」が辞めない仕組みづくり
『オンボーディング』とは、新入社員をスムーズに社内に溶け込ませ、パフォーマンスを上げさせるための一連の仕組みづくりを言います。この冊子ではHR先進国であるアメリカ企業の事例も踏まえ、人材育成のための最新のメソッドを解説。
オンボーディングの具体的な取り組み方をご紹介しています。
オンボーディング
公開日:2020.6.25
「ビジネスに対する考え方が、会社優先から個を大切にする時代へと変化した今、ビジネスと人事はより密接な関係となり、切り離して考えることはできません」と語ったのは、株式会社アックスコンサルティング(以下、アックスコンサルティング) 代表取締役の広瀬元義氏。続けて広瀬氏は次のように語りました。
「人事部門は『人を管理する』という役割から、『人をどう活かすか』という役割に変わっていく必要があります」。
今回は広瀬氏の講演の中から、人事部門にとって最も重要なテーマである「採用」、「人材開発」、そして「従業員定着」についてのお話を余すことなくお伝えします。
目次
最近、会社で切迫した問題となっているのが早期離職問題です。
皆さんの会社で、入社してから1年以内に退職された方はどのくらいいらっしゃいますか?実際、弊社でも「採用したけど、他の従業員とうまくいかなくて辞めてしまった」「現場の上司と合わなかったようで、入社してすぐに辞めてしまった新入社員いる」などのご相談を受けることがよくあります。
この早期離職を防ぐための施策として注目されているのが、「オンボーディング」「エンゲージメント」「OKR」の3つです。
人事部の方であれば一度は聞いたことがあると思いますが、「オンボーディング」は、直訳すると「船に乗り込んでいる」という意味。人事の世界では、従業員が組織の中で乗組員として活躍していくためのスケジュールや研修を指します。新入社員の入社時にきちんとオンボーディングが行われないと、入社前と入社後にギャップが生じやすくなり、早期離職につながると言われています。
次に「エンゲージメント」です。これは、“愛社精神”として訳されることがありますが、もっと深い意味があります。それは、「従業員一人ひとりがその会社が目指す方向性を知り、協力し、信頼関係を構築しつつ、自らも成長を目指すこと」です。従業員の心と会社の考え方の「繋がり」とも言えますね。
そして最後の「OKR」は、「Objectives and Key Results」の略で、一般的に使われている目標管理手法の一つです。
これらのキーワードを踏まえ、本題に入っていきたいと思います。
まずはHR業界の最新情報について少しお話しします。HR業界は日々革新的な進化を続けています。私自身、常に情報収集を行っており、昨年もATD(Association for Talent Development)やHR Tech Conf.&Expoなどの世界的なイベントに参加しました。
▲ATD2019
そこで強く感じたのがHR先進国であるアメリカの”人事部の変化”です。アメリカの人事部門はこれまでの「人を管理する」という役割から、「人をどう活かすか」という役割に変わりました。日本の人事部門もアメリカのように「人をどう活かすか」という役割に変わって行くことが求められています。
加えて、アメリカでは「CHO」の「H」を「Human resource」ではなく、「Happiness」としてChief Happiness Officerとする考え方や役割も一般的になっているようです。CHOは、従業員の幸せが会社やチームに繁栄をもたらすという考えから、従業員の幸せをマネジメントする役職と言えるでしょう。つまり人材を活かす専門家なのです。
仕事をしていて、イライラやストレスを感じることは誰にでもあることだと思います。皆さんの会社では一人ひとりに対して明確に、悩みを聞いて寄り添ってくれる人を用意できていますか?
人が育つためには精神的な支えが必須です。例えば、有名なスポーツ選手には必ず、精神面をサポートするメンターがいます。ではなぜ、一般企業の従業員にはそれがないのでしょうか?今の採用コストをちょっと割けば、その費用は捻出できるはずですし、全ての従業員が今以上の成果を出してくれるでしょう。
月曜日はよく電車が遅延します。とても悲しいことですが、それは自殺者が多い曜日だからであるという話もあります。もっと会社が楽しいところだったら、悩みを誰かに話せたら、きっと会社も社会ももっと良くなるはずなのです。
優秀な人材の確保や定着が難しい今だからこそ、今いる人材に手を差し伸べ、しっかりとオンボーディングし、エンゲージメントを高めていかないといけないのです。アメリカでは、10年ほど前にこういった個人優先の考え方が広まっていました。「従業員が幸せであれば、売上も上がる」。よくよく考えればあたりまえのことです。そのあたりまえを日本でも早急に文化として根付かせていく必要があるのです。
私は数年前から、「幸せと成功」の関係性を深く考えるようになりました。「幸せ」が「成功」の前提なのか、「成功」が「幸せ」の前提なのかということです。一般的には、「成功すれば幸せになれる」と考えがちですが、悲しいことに成功には限りがありません。どんどん次の成功を求めていくことになります。
では、「幸せ」が前提なのでしょうか。例えば、ごみ屋敷の住人がいたとします。テレビ局の人が取材に来て、その住人に「近隣住人から苦情が来ています!どうにかしてください!」とお願いすると「これはゴミじゃない。宝の山だ!宝に囲まれている俺は幸せなんだ!」と答えます。もちろんこのような、“自分だけが幸せならいい”という極端な考え方は論外です。ただ、何年も考えて私が出した答えは、やはり前提となるのは「幸せ」であるというものです。
ほとんどの会社は従業員の「幸せ」よりも「成功」を求めています。人はだれでも「絶対に成功しなければならない」という状況になると、考え方や心がガチガチに固まってしまい本来の実力を発揮できません。例えば、ゴルフでもそうですよね。ガチガチになってゴルフをするのと、リラックスしてゴルフをするのでは結果も変わってきます。リラックスした状態のほうが良いスコアになるというアメリカの調査結果もあります。チームみんながリラックスした状態で最高のパフォーマンスを出せるように、アメリカの企業には幸せな職場を作る「CHO」という役職が置かれているのです。
繰り返しになりますが、従業員が幸せであれば、会社の売上も上がります。ただしそこには、会社の「コアバリュー」が必要不可欠です。組織においては、核となる価値観・コアバリューを明確にして、従業員をオンボーディングするのです。
これからの人事部の仕事内容と役割とはなにか?企業において人材採用、人材育成の失敗は、ビジネスの失敗につながります。従業員を成功に導くため、育て活かすのが人事部の重要な仕事です。
さらに今、採用関連市場は1兆円ビジネスと言われています。日本国内だけでも、年間およそ300万人が転職しているのです。1人採用するのにかかるコストの平均は約50万円ほどです。定着に失敗すれば会社にとって大きな損失になりますよね…。だからどの会社も採用より、人材の定着を最優先事項として取り組むべきなのです。
繰り返すようですが、今まで、多くの人事部が今まで行ってきたのは「人材管理」の仕事。それに対して「人材開発」は新たな役割です。入社時や採用時にはオンボーディングを行い、少しでも早くチームの一員になれるよう導きましょう。
新入社員が入社する時にオリエンテーションを行いますよね?よく勘違いされがちですが、オリエンテーションとオンボーディングは似て非なるもの。オリエンテーションは「What」、つまり“会社のルールなどのわからないことについて教える”こと。対してオンボーディングは「Why」、“なぜこうしないといけないのか”という核となる考え方を気付かせること。
新入社員が仲間に加わる時、会社と従業員との信頼関係・エンゲージメントが重要になります。それを計ることができるエンゲージメントサーベイなども、これからの人事にとっては頼れるツールとなるでしょう。
また先程、採用コストのお話もしましたが、コストをかけず、かつ優秀な人材を獲得するためには「リファラル採用」が良いでしょう。これは従業員の紹介による採用方法です。弊社では優秀な知人を紹介してくれた従業員には紹介料を支払っています。もちろん一定条件をクリアする必要はあります。
ただ紹介業者を介すとかなり費用がかかりますよね。にもかかわらず、すぐに辞めてしまう場合もあります。リファラル採用なら、会社の制度や文化を分かったうえで入社するため、辞めずに続くことが多いのです。
なぜ人は会社を辞めてしまうのでしょうか。人の辞職と「心理的安全性」には深い関連性があります。
例えば、結果を出せず、評価が下がると、そのことで「上司から叱られるのでは?ボーナスが出ないのでは?」不安になったり、部門や部署、または同期の中で「自分の居場所がなくなるのでは?」と不安になったりします。
そういう時にサポートしてくれる人を決めておきましょう。仕事では失敗をして、上司から叱られることもあると思います。そういう時に相談できる他部門の先輩社員を意図的に用意しておくべきです。彼らにはブラザー、シスター、バディなどと名称を付け、明確な役割をあたえるのです。頼れる存在が近くにいれば、離職の危機を回避することができるはず。ただ、残念ながら現実的にそういった体制が整っている会社はまだまだ少ないと感じています。
時代は組織中心の考え方から個を大切にする考え方へと変わってきています。しかし、まだ組織優先の時代から抜けられずにいる企業も多くあります。長時間労働が生産量の向上につながるという古く間違った考えを改め、たった5つのことを意識的に行うだけで、従業員同士の人間関係は大きく改善でき、離職者は確実に減っていくでしょう。
この5つを一連のものとして体系立てて実施できれば、確実に離職者を減らすことができます。
特に1on1ミーティングでのコミュニケーションが重要です。1on1ミーティングの頻度に関しては年に1回や半年に1回では少なすぎます。アメリカでは毎日行う企業もあるといいます。タッチベース(※1)ともいわれていますね。ただ、これらを人事部だけで行うとなると負担が多すぎるので現実的ではないでしょう。それらの実現には、各部署の幹部を巻き込んでいく必要があります。それらをサポートしてくれるクラウドソフトもあります。
※1 タッチベース
上司と部下がコミュニケーションを頻繁かつ適切にとることで、上司が部下の考えを把握し、部のモチベーションを引き出す手法
皆さんは「デジタルトランスフォーメーション(DX)」という言葉をご存知ですか。IT技術による変革、特にここでは人の生活をより良い方向に変えていくことを指す言葉です。今後一層、人事に必要な要素となっていくでしょう。
例えば、弊社で提供しているシステム「MotifyHR」では、人材マネジメントや、人事が行わなければならないオンボーディング・エンゲージメントサーベイを利用できるだけでなく、マネージャーサポート機能やフィードバック機能も備えています。これはもちろん、早期離職対策にも大変有効です。
常に新たな技術や考え方が生まれ続ける現代社会において、人事部や上司やチームリーダーもその恩恵を活用し、従業員全員を幸せにしていく。そして全社員が成果をだせる社会を創り上げていってほしいと、私は強く願っています。
従業員が幸せであれば、創造性も生産性も高まり、結果として企業の利益は上がります。そこで重要なのはコミュニケーションです。そのためにHRテックを上手に活用し、人材育成と企業利益向上の双方を同時に叶えましょう。
今回のポイント
アックスコンサルティングは、創業時より経営者の方々と、士業事務所の「成功の架け橋」という役割を担い、長年ビジネスパートナーとして全国の士業事務所を支援してきました。そして、2019年よりHRテック業界へ本格参入しています。
広瀬 元義氏
株式会社アックスコンサルティング
代表取締役
士業コンサルティングを中心に事業を展開し、1万件以上の会計事務所をサポート。2019年3月、企業における「人事」の課題解決を後押しするクラウドシステムを発売開始。会計事務所および経営者向けセミナーの講演は年間50回以上。これまで出版した著書は45冊以上、累計発行部数は48万部を超える。
この記事を書いた人