オンボーディング Onboarding 「新卒社員」や「中途社員」が辞めない仕組みづくり
『オンボーディング』とは、新入社員をスムーズに社内に溶け込ませ、パフォーマンスを上げさせるための一連の仕組みづくりを言います。この冊子ではHR先進国であるアメリカ企業の事例も踏まえ、人材育成のための最新のメソッドを解説。
オンボーディングの具体的な取り組み方をご紹介しています。
パフォーマンス管理
公開日:2019.4.25
弁護士法人心は、代表弁護士の西尾氏が弁護士になって3年目に開業独立。その後、たった10年で弁護士44名を含む総勢160名体制にまで成長し、現在では名古屋、東京を中心に9拠点を展開しています。同社の急成長ぶりは弁護士業界をはじめ多くの経営者から注目され、西尾氏のもとにはたくさんのセミナー講演依頼や取材が入ります。
なぜ、弁護士法人心は短期間でここまで成長できたのでしょうか。その背景には10年間にわたり、代表自ら実践してきた考え方の徹底と、これまでの試行錯誤の中から生み出した研修の継続がありました。
今回は代表の西尾氏と代表補佐兼広報の上田氏に、具体的にどのような研修をされているのか、またそこに至るまでの思いや背景をお伺いしました。
目次
西尾:
全体研修が3週間に1回、1時間30分ほど。これに加えて、弁護士全員が参加する法律研修を月に1回、2時間実施しています。さらに交通事故、後遺障害、債務整理、相続、相続税、労災、離婚、刑事、不動産、企業法務、コンプライアンスなどといった業務分野別の研修を月最低1回、2時間程度の研修をしています。また、弁護士会議は3週間に1回、5時間、スタッフ向けには弁護士会議の報告として3週間に1回、2時間でやっています。仕事する時間がないくらい研修をしていますね(笑)。
西尾:
名古屋と東京に分けて、時間はバラバラ。弁護士もスタッフも研修するので、研修で抜ける前提で仕事を組んでもらっています。一部でこの人がいないと困る…という意見もありましたが、昼休みで仕事を抜けることも、風邪で休んで抜けることもありますし。今では、社員が研修でよく抜けるという状態に慣れています。また、計画性を持たせるために意図的にやっているという面もあります。
ある大手税理士事務所では研修に相当時間をかけられていて、月曜朝礼から、週の営業日5日のうち1日終日研修をやっているんですね。本当にいつ仕事をするんだろう…というくらい(笑)。
でも、代表の先生がおっしゃるには『研修に2割時間をかけても、2割以上の売上が上がれば問題ない』そうで、その勢いで私たちもやっています。
西尾:
研修のなかでは『プロダクトアウト、マーケットイン』に力を入れて話をしています。マーケットイン型の業務は人の心に関わる業務、プロダクトアウト型の業務は便利なものをつくる業務に向いています。私たち弁護士の仕事は、人の心に寄り添う仕事なのだと思いますので、マーケットイン型であるべきなんですよね。でも、弁護士のような資格業務は、競争が少ないので、本来的にはマーケットイン型の業務であるにもかかわらず、楽ができてしまうので、お客様の心に寄り添うことを忘れ、業務効率を優先し、疑似プロダクトアウト型になってしまいがちです。既製品になっちゃダメで、オーダーメイドでなければいけないんです。そのために、一人ひとりのお客様と向き合い、柔軟に対応することが大切です。
また、『選択と集中』の話もしています。
西尾:
弁護士にとって『選択と集中』はとても重要だと思っていますので、最初からしっかりと研修で伝えています。弁護士は専門特化しないとクオリティがすごく低くなってしまいます。
専門特化することで、ハイクオリティ、ハイスピード、ローコスト、ハイフィー、メニークライアントが実現できます。うちの事務所が紹介が多く、かつ、生産性が高いのは、交通事故を担当する弁護士なら交通事故だけをまずはやるというように『選択と集中』を徹底しているからです。専門特化したいからという理由でうちに入りたがる方も多いです。
ただ、うちでは専門分野だけではなく、1~3割程度は専門分野以外を扱わせるようにしています。専門分野だけをやっていると、頭が固くなり、視野が狭くなってしまいますし、時代の変化に対応して新規分野を開拓していくということができなくなってしまいます。また、同じ業務をしていると飽きてしまうので、他の分野を幅広くやらせることも必須です。知的な仕事において、飽きてしまうというのは致命傷ですから。
彼(上田)のように初めから『選択と集中』でやりたい、という人もいれば、私の話を聞いて考えが変わったという人も多いです。
これはアメリカの弁護士から言われたことなのですが、「君たちは脳腫瘍になった時に仲の良い眼科の先生に脳の手術をお願いするのか?大腸がんになった時に人柄が良いという理由で、その皮膚科の先生に大腸の手術をお願いするのか?そんなことはないだろう」と言われました。
西尾:
法律先進国の弁護士は専門分野を持っていて、自分の専門分野以外はやらない、なんて君たちは遅れているのか、とも言っていました。交通事故と相続だったら、違う仕事だからと。うちも同じですね。ちゃんとお客様のことや自分のことを考えたら何でもやりたいという人はいないと思うんです。
このように入社間もない時期から『選択と集中』という考え方を身に付けることで、紹介を圧倒的に増やし、かつ、生産性を高めることができるんです。
西尾:
『接客力』ですね。弁護士は一人で対応することが多いので、『接客力』がありそうかどうかで見ています。学歴が高い、あるいは、司法試験の成績が良くても面接で会話がかみ合わない人がかなりいます。聞いていることとだいぶずれた答えが返ってきた時には、「この人はお客様とうまくやれないだろう」、と考えてしまいます。やはりどんなに高学歴で勉強ができても、コミュニケーション能力が低いと難しいですね。
西尾:
ありました。過去にいた人で、高い学歴で試験の成績なども優秀だったのですが、研修の時に『相手と会話する時はうなずきながら聞くように』と言ったら『何回くらいうなずけばよいのですか?』と…。
『相手の目を見て会話するように』と言ったら、ずーっと見続けている…。いろいろな試験など他の受験者と比べ半分の時間で解いて満点で、すごい優秀だから、これだけ優秀なら多少コミュニケーションに難があっても、入社後もある程度成果を上げてくれるだろうと思ったのですが、コミュニケーションがとれなさ過ぎて結局クレームだらけでダメでしたね…。
やはりどんなに高学歴で勉強ができても、コミュニケーション能力が低いとお客様の前には出せないですし、正直難しいです。
あと、 事務所の理念的なことを言うと一気に嫌になる人はいますね。これはどこの事務所でもそうではないでしょうか。研修時に直接は言わないんだけど、目を見れば嫌かどうかはわかります。耳で聞いているふりをしていて、うなずいていないとか…。考えの合わない人に関しては、尊重はするけれど、一緒に仕事は無理ということを伝えています。
西尾:
今一番多い仕事が『交通事故』で、事務所の売上の半分以上を占めています。ただ、『交通事故』は減少傾向なので、今は『交通事故』から『相続』に移行しています。将来的に『相続』を『交通事故』と同じくらいの規模に持っていきたいです。今43歳なので、50歳までに相続に加えて、離婚や労働問題、人材育成、税務、システムなども含めた企業トータルサポートなど、各分野の専門家をそろえることで業務の範囲をあらゆる分野に広げ、社員数は、今の6倍の1,000人くらいを考えています。
そのためには、正しい考え方を持つ人をいかに育てられるかが重要。そのための環境をつくることが私の仕事だと思っています。
今回は代表の西尾氏と代表補佐兼広報の上田氏に、弁護士法人心の研修制度やそこに至るまでの思い、背景についてお伺いしました。入社時から多くの時間を研修にあてることで、所員の定着化、生産性向上を実現できたのでしょう。
西尾 有司氏
弁護士法人心 代表弁護士
1975年生まれ。
名古屋市出身。
北海道大学法学部卒業。
弁護士になって2年目で勤務弁護士をしながら年商1億円超えを達成。独立後は経営手腕を発揮し、わずか10年で弁護士44名を含む社員160名体制を構築。
弁護士、経営者、医療機関等を対象に、経営や法律に関するセミナーを年30回以上行う。
この記事を書いた人