2015年にリリースされた、人工知能を活用したSEOプラットフォーム「MIERUCA(ミエルカ)」で注目を浴びている株式会社Faber Company。「職人とテクノロジーの融合」というテーマを掲げる同社の成長のカギの一つは、独自の採用・育成戦略にありました。
今回はFaber Company株式会社 代表取締役 稲次正樹氏にそのユニークな制度や人材育成についてお話しいただきました。
目次
つまらない採用ならしないほうが良い!
今回お話しいただいたのは、代表取締役の稲次正樹氏。20代で有名芸能事務所、広告代理店での勤務を経験した後、IT業界へ転身。その後、2011年に株式会社Faber Companyの前身である株式会社セルフデザイン・ホールディングスに入社されました。現在までにさまざまな経験をしたからこそ、そのアイデアは実に自由で、従来の枠にとらわれないものでした。
そのアイデアがカタチになったのが、2019年4月入社の新卒採用から取り入れた「ユニーク採用」。独特なネーミングですが、稲次氏は「今や多様性はあたり前。画一的な基準で採用するだけでは、企業の成長に必要な発想が生まれにくいことを感じていました。人は自分が得意とすることには特に集中力・継続力を発揮できるもの。だからこそ、ダイバーシティ(多様性)への取り組みの一つとして、何かに特化して優秀な人間の採用に取り組み始めました。それが『ユニーク採用』です」と語ります。
ユニーク採用は複数のユニークな採用活動の総称で、例えば、高度なマネジメントスキルが要求されるリーダーと成り得る人材を獲得することを目的とした「体育会採用」、まんべんなく平均点は取れなくても1つのことを極めている「ヲタク(一芸)採用」、クセの強さに可能性を見出す「異端児採用」、学歴を重視せず少しでも早く起業したいという「大学行かない採用」などがあります。まさにユニークで個性的な人材が集まりそうな採用方法です。
「20歳で入社したある社員は、もともと独立希望だったこともあり、他を凌駕するほど積極性に秀でていて大活躍してくれました。大卒の社員よりも年下ではありましたがそんなことは関係ないんです。特定の分野で力を発揮できる人材は貴重。今後このような『○○採用』は弊社だけではなく、ほかの会社でも増えていくでしょう」と稲次氏。
このユニーク採用を導入した2019年4月入社の新卒には、実際に大学サッカーリーグで活躍した選手や、なかには地下アイドルとして活動してきたという人も。
「ほかの子にはない経験をして、実際に努力家で行動力があったし、地下アイドルをしながらも大学をちゃんと4年で卒業したことも実績として評価できる人材でした。このユニーク採用にはまだまだ実験的な部分がありますが、適切な採用方法として今後も変化しつつ、継続するでしょう」と稲次氏は語ります。
強烈な個性を大きな付加価値として認め、伸ばしていく「ユニーク採用」。通常の採用と並行しつつ、今後も増やしていく予定だそうです。
採用される側だけでなく、する側も重要。
担当者の育成にも尽力
このような新たにスタートした採用方法だけを見ると個性的に思えますが、通常の採用面接や試験にはとても堅実な同社。面接前に行うコンピテンシー検査という適性試験では、どういう思考・行動の傾向がありそうか、どんな業務で活躍しそうなタイプなのかを見極めてから面接を実施しています。
「当社には問題解決の能力に長けているタイプが多く活躍しています。積極的な人材ですね。しかし、同じタイプだけ集まっても組織としてはダメ。インターネットマーケティングにはコツコツ業務をこなしてくれる受け身タイプの人材も重要なんです。違うタイプが各々の特性を発揮できる、バランスが取れた職場を心がけています」と稲次氏は語ります。
Faber Companyの採用面接は平均3~4回。それは単なる合否ではなく、様々な部署の先輩社員とじっくり話せるようにするためなので、多い時には5~6回行われることもこともあるそう。また、面接を担当するメンバーに対しても模擬面接や会社に対しての知識を問うペーパーテスト、問答集の準備などを行い、採用側の育成も抜かりなく行っています。
さらに、入社後の会社に対するギャップを避けるための仕組みも導入。
「内定者合宿では『個人と会社の強みをどうクロスさせるか』などを考えてもらうワークショップや、スポーツやゲームを通じてコミュニケーションの強化をしています。この合宿が入社を最終的に決断する猶予期間にもなっているんです」と稲次氏。
会社に対する価値観のズレは、後々社員にとっても会社にとってもマイナスになるものです。会社の熱意やいい意味での”暑苦しさ”を事前に伝えておくことで、ズレやギャップを修正しておく。ここでも同社の人材採用に対する真摯な姿勢がうかがえます。
採用後の徹底した育成制度で
牽引していける人材を
「私たちが大切にしている育成制度に『バディ制度』というものがあります。わかりやすく言うと昔の『徒弟制度』を再現したもの。新入社員が先輩とペアを組み、手取り足取り教えてもらう仕組みです。時には役員と新入社員が組むこともあります。人の育成には手間をかけなくてはいけないんです」と稲次氏。
同社がこの制度を大切にするのは、業務上のスキルを育てるだけでなく、企業としての理念や姿勢も同時に伝えるため。人は気持ちで動くものだからこそ、基本的な考え方を社員と共有しています。このように人間関係を重視する同社にとって、現代に再現された「徒弟制度」は大変有効な人材育成手法になっているようです。
さらに入社後の研修は『実践』がメインになっているとのこと。
「新入社員には、座学だけでなく、すぐに現場での実践も体験してもらいます。早い人だと入社4ヵ月目にセミナー講師を任されることも。完全じゃなくても、アウトプットをしていくことが大切。それが力になります。実際に、ミエルカを導入している企業様を対象に行っている、『ミエルカ大学』では、新卒社員が講師を務めています。はじめは緊張してうまくプレゼンできない社員もいますが、実践を積むことで次第に慣れてきます。そうすれば1年目から実践スキルが身に付き、どのような場でも活躍できるようになります」と稲次氏。
ユニークさと堅実さの双方を重視している同社の取り組みはこれらの育成制度だけではありません。社員のスキルアップやモチベーションアップのために行っている施策にも、同社ならではの秘密が隠されていました。
スキルやモチベーションを上げる
オリジナリティあふれる施策
同社が実施している施策の一つが、条件付き住宅補助制度「歩いて10」。会社から半径800メートル以内(歩いて10分以内)に居住した場合は、月4万円が家賃補助として支給されます。通勤時間を減らし、そのぶん自身の学びや健康維持のために時間を使ってほしいという制度です。特に新卒の利用者が多く、近くに住むメンバーで食事や旅行に行ったり、近所の先輩とジムに通ったりと、良好な人間関係の構築に効果があるそう。
「20代は人間関係を形成するうえで大切な時期です。生涯の友人ができたりしますよね。そんな時期に少しでも会社が助けになれるなら、弊社にとってもメリットと考えています」と稲次氏。
そして、チャレンジの場として設けられた制度である「特進コース」。これはなんと、マンションの1室で社員3人が寝食を共にして新規事業の立ち上げに取り組むというもの。昨年10月に第1期として事業がスタートし、家賃や光熱費などの費用はもちろん会社が負担しています。
メンバーは立候補した人からの選抜で決定。働き方改革に取り組む一方で、「将来の起業を見据えて、スタートアップの経験を積みたい」「今は仕事に夢中になりたい!」といった社員のために集中できる環境をつくるためにスタートした、新たな試みです。
基本的には期間を1年間とし、今後、第2期、第3期と引き続き実施予定だそうです。
「社員には『若い時にやっておけばよかった』と後悔してほしくないんです。大学を卒業して20年くらい継続的にがんばった人の多くは目標を達成しています。ただ、諸事情で叶わないこともある。だからこそ、会社がある程度、お膳立てしてでも、未来の日本を担う優秀なビジネスパーソンを育て、夢を叶えてもらいたい。そのための制度、チャレンジの場です」と稲次氏は語ります。
こうした施策は社員のスキルアップ、モチベーションアップにもちろん有効。さらに定着率アップの一端も担っているようです。
まとめ
「ユニーク採用」や「特進コース」、少しクラシカルな徒弟制度の現代版「バディ制度」の再現など、一般の企業ではあまり聞かない制度を多く取り入れた株式会社Faber Company。
こういった制度や仕組みのスタートはすべて、企業の基盤となる「人」を育てるためでした。
ときには事業を立ち上げた元社員と仕事をすることもあるとのこと。「『あの会社出身の人は優秀なんだよね』と言われると、直接褒められるよりうれしかったりします」と稲次氏は語っています。その言葉に、働く人すべてを大切にし、育て、敬う、企業の姿勢が見えました。
プロフィール
稲次 正樹(いなつぐ まさき)氏
株式会社Faber Company代表取締役。千葉県八千代市出身。早稲田大学(西洋哲学専攻)卒業後、1998年、株式会社アミューズに入社。音楽コンテンツのITビジネス化の黎明期に立ち会う。2000年、株式会社大広(現・博報堂DYホールディングス)に入社、大手食品メーカー・大手外資金融のダイレクトレスポンスモデルの開発・運用に従事する。2004年にITベンチャー畑に転じ、サイバーエージェント、セプテーニグループを経て2011年に当社入社、現任。当社グループの経営を支える。座右の銘は「松明は自分の手で」。