オンボーディング Onboarding 「新卒社員」や「中途社員」が辞めない仕組みづくり
『オンボーディング』とは、新入社員をスムーズに社内に溶け込ませ、パフォーマンスを上げさせるための一連の仕組みづくりを言います。この冊子ではHR先進国であるアメリカ企業の事例も踏まえ、人材育成のための最新のメソッドを解説。
オンボーディングの具体的な取り組み方をご紹介しています。
パフォーマンス管理
公開日:2019.5.24
美容系のポータルサイト『@cosme(アットコスメ)』の企画・運営、関連広告サービスの提供を手掛ける株式会社アイスタイル。
意識の高いユーザーからの情報とクチコミ、特定のメーカーに偏らない公平な商品情報から構築された圧倒的なデータベースは国内で唯一無二。店舗やECも広く展開しながら、今や海外進出も果たし、急成長中です。
「Beauty×ITで世界No.1」という目標を掲げている同社。
体制のさらなる拡大のため、中途採用、および新卒採用に注力し続けています。
そこで軸となっているのが、人材の確保や維持を意味する「リテンション」。新たに取り入れた緻密なオンボーディングプログラムと人事制度、柔軟な運用方針が人材の定着、そして事業拡大のカギとなっているようです。
今回は、株式会社アイスタイル Vice President ヒューマンリソース本部 本部長の鈴木敬介氏に、人材定着のための人事制度、評価制度についてお話を伺いました。
目次
外資系企業に長く在籍し、海外の制度やプログラムを日本法人に導入するなど、人事のプロフェッショナルとして活躍されていた鈴木敬介氏。自らのスキルを活かせる新たな活躍の場として2017年に入社したのが、日本最大のコスメ・美容総合サイト『@cosme(アットコスメ)』の企画・運営会社、アイスタイルです。
「私が入社した当時、アイスタイルの離職率はそれほど高くはありませんでした。ただ問題だったのは、入社1年以内の社員の離職率が高かったことです」と語る鈴木氏。
アイスタイルでは欲しい人材、良い人材を採用して、せっかく入社したものの、うまく定着しないで退職してしまうことが課題となっていました。そして調査の結果、その原因が判明。採用した人材が配置された部署によってかなり対応の差があることがわかったのです。
こうして優秀な人材の定着を第一の目標に、鈴木氏のHRに対する取り組みがスタートしました。
アイスタイルの採用は適性検査に加えて、3回ほどの面接が行われます。直属の上司となる人はテクニカルなスキルや経験を中心に確認。そして各部署の本部長とHR本部長がその人と会社がマッチするのか、会社のビジョンへ共感できるかなどを面接フェーズごとに見極めているそうです。
「その人が会社のビジョンにワクワクしてくれているのか、価値観が合っているのか、そして当社の行動指針に合うのか、その適性を見極めています」と鈴木氏。
新入社員が入社前と入社後にギャップを感じることは、多くの企業が問題としている離職理由の一つ。そのギャップを可能な限り回避するために、鈴木氏は率直に今の会社の現状を求職者に伝えるようにしているそうです。
「正直、うちの会社は誰にでも合う会社ではないと思います。『@cosme(アットコスメ)』から連想する華やかなイメージとは異なるかもしれませんが、割と地味で真面目だったりします(笑)。日々の作業にスピード感は求められますが、それがすぐに成果につながるわけではない場合が多く、即、結果を出したいという人には向かないかもしれません。その代わり、アイスタイルが今まで地道に集めた膨大なデータや、ユーザーやクライアントとの信頼関係を使ってできることは多いはずです。この会社にしかできないことが数多くあって、そこに魅力ややりがいを見出せる人にとっては、唯一無二の面白い仕事ができる環境になるはずです」と鈴木氏は語ります。
自社に合う人材を見極められるかどうかも、HR担当として重要な役割。客観的かつ冷静な分析が必要なのです。
アイスタイルには、採用後、実際に戦力として育てていく過程にアイスタイル流のHR戦略があります。その特徴が『オンボーディング』です。
オンボーディングとは、新入社員の早期戦力化と組織適応の両方を行う、人材定着のプロセスのこと。
同社では、入社後の3ヵ月間は特に集中してオンボーディングを行う活動期間が設けられ、さまざまなアクティビティやサポートが準備されています。全社をあげての取り組みになっているのです。
もちろん、入社した本人たちも受け身ではいられません。自ら働きかけること、より積極的なアクティビティを会社が推進しているのです。
上記の資料は、実際にアイスタイルが行っている『オンボーディングプログラム』です。
このオンボーディングプログラムには、週ごとのアクティビティが1日目から部署ごとに細かく設定されています。
例えば、『Day1』ではHR部門による研修やオリエンテーション、同僚となる職場にはウェルカムポスターの設置とランチの予定が組まれ、上司はこれらの受け入れ計画の指示を担当します。
「入社する方が将来このような結果を出すために」という目的とともに、明確な指示がなされているため、入社側・受け入れ側双方に役立つものになっています。
「このオンボーディングプログラムに実際に取り組み始めたのは2018年からになります。1年以内の離職率を改善するため、どの部署に配属されても同じ水準で研修・経験ができるように、もともとあったプログラムに新たにオンボーディングの要素を追加して全体の流れなども改良したものです。良い人材を確保する難しさは年々増しています。なので人材の流出を防ぐための施策、『リテンション』は最高のリクルーティングとも言えます。
鈴木氏は、アメリカ・ラスベガスで行われる最大規模のHR Techのイベント「HR Technology Conference&Expo」にも参加し、現地で得た最先端の情報を得て、自社のHRに生かせるようなテクノロジーについても検討されているとのことです。
アイスタイルでは2018年から「バリューに基づく人事」ということを大きな軸に、人事制度の大きな見直しを行っているそうです。それに伴い、同社では『ステージ制度』『マンスリーチェックイン制度』『ハンズアップ制度』の3つを取り入れました。
まず1つ目の『ステージ制度』とは、欧米でよく導入されている職務等級制度で、従業員の担当している職務の役割レベルによって期待する行動水準や賃金を決めるシステムのことです。会社が期待する成果や、行動、スキル、給与設定がクリアになることで社員のモチベーションが上がり、能力開発目標も立てやすくなります。
2つ目の『マンスリーチェックイン制度』とは、月に1度、上司と部下が継続的に面談を行うことで強いリレーションシップを築く制度です。上司が部下の成長を後押しすることを目指した制度ですが、同社では「部下が自分の手で成長の種を上司にもらいに行く」という趣旨で行われているため、日程・内容などは部下が主体的に決め、内容も提案しているそうです。
「まだ始めたばかりの制度ですが、続けることで何か見えてくるでしょうし、確実に成長にはつながると考えます」と鈴木氏。
こういった制度の導入は新卒・中途で入社した人材だけでなく、上司にも役割の変化を与えることになりました。マンスリーチェックイン導入によって、上司からも「意外と部下のことを知らなかった」「部下と距離が近くなった」という声が聞こえてきたそうです。これによって、上司のサポートすべき部分が明確になったと言えます。
そして3つ目の『ハンズアップ制度』とは、社員のあらゆる可能性を広げ、チャレンジを支援していくためのいくつかの制度の総称です。若手社員が上の役職を自ら志す『ステージアップ宣言』や執行役員に志願する『執行役員ハンズアップ』、就業時間の5パーセントの時間を使って新規事業に取り組む『5パーセントクラブ』などがあります。他にも、社内の空いているポジションを応募する『ポジション・ハンズアップ』などを定期的に行っていく予定だそうです。
「もともとアイスタイルは『社員を成長させたい』という考え方を持っていましたが、そのサポート方法が確立されていませんでした。今はいろいろな制度を導入しながら定着させて、成果を出していく段階です。制度については今まで同様、制度の評価やビジネス戦略に応じてフレキシブルに変化させていくつもりです」と鈴木氏。
さまざまな制度の導入と同時に、社員社員一人ひとりが主体性を持つことの重要性を伝えているアイスタイル。
今、アイスタイルは大きな変革を遂げようとしています。
今回は長年人事に携わるプロとして、人事に悩む方へのアドバイスを鈴木氏にお願いしました。
「人事制度って、どこかで整合性が取れなくなることが多いものです。そういった時は一度全体を俯瞰して、整合性を確認したうえで、一つひとつを照らし合わせてみる。時には変えること・止めることを恐れず実行することも大切です。もし変化を望むなら、現場から文句や反響が出ないような変化では何も変わらないでしょう。不協和音が出るくらいの変化が必要です」と鈴木氏。
「Beauty×ITで世界No.1」を目指すアイスタイル。これからも変化を恐れずに進むことで、その目標を叶える日は近いのではないでしょうか。
鈴木 敬介(すずき けいすけ)氏
株式会社アイスタイル Vice President
ヒューマンリソース本部 本部長
1993年、P&G入社。採用、給与・福利厚生などを経て、HRシェアードサービス、オフショアセンターの立上げに関わる。P&GがHRのバックオフィスサービスをIBMにアウトソースしたのに伴い、2004年IBMに転籍し、人事および研修サービスのアウトソース事業に携わる。その後、2009年にアディダス ジャパンHRディレクター、2014年にはフィリップ モリス ジャパンHRビジネスパートナーを経て、2017年にアイスタイルに入社。
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