オンボーディング Onboarding 「新卒社員」や「中途社員」が辞めない仕組みづくり
『オンボーディング』とは、新入社員をスムーズに社内に溶け込ませ、パフォーマンスを上げさせるための一連の仕組みづくりを言います。この冊子ではHR先進国であるアメリカ企業の事例も踏まえ、人材育成のための最新のメソッドを解説。
オンボーディングの具体的な取り組み方をご紹介しています。
パフォーマンス管理
公開日:2020.3.12
「OKRを導入するのであれば、会社のトップである経営者の覚悟が必要」と語るのは、 株式会社タバネル 代表取締役 奥田和広氏(以下、奥田氏)。 奥田氏は2018年6月に株式会社タバネル(以下、タバネル)を設立。組織へのOKR導入を支援し、OKRで組織を4倍速で成長させるコンサルティングを提供しています。また2019年4月には書籍「本気でゴールを達成したい人とチームのためのOKR」を出版し、読者からも高い評価を得ています。
GoogleやFacebookなどの有名な大企業が導入しているOKRですが、日本企業で活用する場合、どのように運用していけば成果につながるのでしょうか。今回は奥田氏にOKRの運用を成功させるためのポイントをお伺いしました。
前編である本記事では「OKRで起業した経緯」、「OKR導入時に経営者が気を付けるべきポイント」について、後編では「OKRの具体的な運用方法」、「OKR運用時に注意すべきポイント」についてご紹介します。
目次
私は三人兄弟の末っ子として生まれまして、ちょうど私が生まれた年に父がアパレル事業で起業しました。物心がついた頃から経営者としての父を間近に見てきた影響もあり、いずれは私も家業を手伝うものだと考えるようになりました。大学卒業後は上場アパレル企業である株式会社ワールドや銀行系コンサルティングの株式UFJ総合研究所に入社。ここで経験を積み、父の会社に入社しました。
私は入社と同時に新たにアクセサリー事業を始め、責任者となりました。ゼロからスタートし一時期は全国40店舗170名を超える規模まで成長させたのですが、私の事業の急拡大と既存事業の苦戦により東日本大震災が起こった年に会社が倒産してしまいました。
その後、大手化粧品会社のマーケティング責任者や組織マネジメントのコンサルティング会社に入社。その中でGoogleが採用している「OKR」という目標管理に出会い、これこそが企業を成長させるのに有効な目標管理だと実感しました。より多くの企業や経営者の方に「OKR」を活用してもらいたい、彼らの企業、従業員を「OKR」のコンサルティングで支えたいと思い、2018年6月に株式会社タバネルを設立しました。
タバネルで行っていることは、企業がOKRを導入する際のコンサルティング、導入支援や組織体制の整備です。
なぜOKRのサービスで起業しようと考えたかというと、やはり自分自身が体験してきたことが大きいです。私は会社のトップとして経営者の立場も、大企業の中間管理職の立場も経験してきました。
特に中間管理職を経験した時に感じたことは「与えられた目標に対して追いかけることが得意な人は多いが、自分で目的を立てて行動する人が少ない」ということです。多くの人が日々、忙しく目の前の数字やタスクだけ追っていて、自分が所属している組織が将来どこに向かおうとしているのか、意識できている人はあまりいなかったと思います。
昔はマニュアル通りにきっちり仕事をしていれば成果が出ていたかもしれませんが、今は上司ですら何が正解かわからない時代になってきています。「これだ!」という答えがない時代だからこそ、組織に属しているメンバーが自立し、同じ方向に向かって、より高いところに目的を置いてチャレンジしていく必要があるのです。
会社、組織の長期的な目的を追いかけながら、同時に目の前の目標数字も一緒に追いかけていく、それにはこの「OKR」という目標管理が適しています。自分がやりたいことはこの「OKR」なのだと気づき、起業に至りました。
OKRの導入はアメリカで始まりました。OKRの導入成功企業について書かれた書籍、2014年に「How Google Works (ハウ・グーグル・ワークス)」、2015年に「ワーク・ルールズ!」が出版されてから、どんどん世界中に広まっていきました。
海外の企業であればGoogleの他にfacebook、twitter、Aribnb、日本企業ではメルカリをはじめSansan、freee、チャットワークなどが導入企業として有名ですね。
このような背景を受けて、今も私のところにさまざまな企業の経営者から、OKRの導入についてご相談をいただいています。たとえば「OKRを導入したら会社がうまくいくでしょうか…」「どのように活用したら成果につながるのでしょうか…」など。
その時、みなさんに必ずお伝えしているのは、OKRを導入するのであれば、「会社のトップである経営者の覚悟が必要」ということです。もちろんこれはOKRに限らず、新しい制度を導入する際は経営者の覚悟が必要になります。「今これが流行っているからやってみよう」「有名企業がやっているからうちもやってよう」という前向きでチャレンジ精神に満ちた考え方はとてもよいと思いますが、OKRは即効性のある施策ではないので、軽い気持ちだったとしたら、始めてもうまくいかないでしょう。
多くの成長企業で導入され注目を集めているOKRですが、導入して成功させるためには運用していくうえで気を付けた方がよいポイントがいくつかあります。
1.目的、目標や優先順位を明確かつオープンにしなければならない
これまでお互いに空気を読む、阿吽の呼吸でやってきたような事柄についてもはっきりさせなくてはいけなくなります。OKRを導入すると、目的、優先順位について白黒はっきりつけることになるため、玉虫色のような状態で仕事を進めてきた人にとっては当初はストレスを感じることになります。しかしながら、あいまいな状況こそストレスの原因であったとOKR導入後には気づくことになります。また、組織や周りの部門との軋轢や不信感は情報をオープンにすること、組織に透明性を持たせることで解決に向かいます。
2.高頻度のコミュニケーションが必要になるため、特に中間管理職層の理解が必要
全体の整合性がとれているか、部門連係がとれているか、部下たちの1on1ミーティングの実施など、全社的にコミュニケーションをとる機会が増えるため、その分、中間管理職の方の理解が必要となります。
OKRを取り入れて運用させるには、特に現場の社員に向けた丁寧な説明が必要です。「なぜOKRを行うのか」という目的を社員に理解してもらわないと、現場、特に中間管理職層から見れば単純に負荷が高まるだけと勘違いして反発につながる可能性があるでしょう。
また先ほども述べましたが、OKRは即効性のある施策ではないので、導入してから社内に浸透し、成果を実感できるまである程度時間がかかります。目標や企業規模にもよりますが、成果を実感できるようになるまで平均で6~12カ月はかかると思います。そこも含めて、じっくり取り組む覚悟があるか、自社の事業戦略にマッチしているかなど、思いや考えをまとめておくとよいでしょう。
会社が成長していくには、社員みんなが共通の目的を持って同じベクトルを向くことが大切です。そのために「ミッション=存在意義」、「ビジョン=将来目指すべき姿」、「バリュー=価値」があります。この「ミッション」「ビジョン」「バリュー」を社内に浸透させるには、社員同士の「コミュニケーション」を繰り返し続けていくしかありません。
どれだけやったとしても「ミッション」「ビジョン」「バリュー」が浸透しつくすことはないでしょう。ただやみくもに社訓の暗唱を行ったとしても、目的がなければあまり意味がないのではないでしょうか。だからこそ、会社の経営者や幹部、人事部長など立場が上の人が率先して、さまざまな手段で自らの言葉で社員に伝えていく、ということをしなければなりません。
たとえば、「ミッション」「ビジョン」「バリュー」を浸透させるために全社メールを送付する、普段全社員が目にするツールなどにメッセージを出すなどがあります。特に、経営トップの想いを直接伝える社内向けのブログやSNSを定期的に発信することをお勧めします。その際には、社内での取り組みや社外での評判をポジティブな表現でミッション、ビジョン、バリューに絡めて伝えてください。たとえば、「A部門で最近始めた○○という取り組みは素晴らしい。まさに当社のミッションである□□を体現している。」とあれば、現場はミッションを自分ごとになり理解しやすいうえに、仕事を承認、称賛する意味もありますし、他部門への仕事内容の共有にもなります。いずれにせよ自分の会社にあったやり方で、とにかく社員に届けるようにしましょう。
そして、中間管理職やマネージャーたちが現場の社員たちに伝わりやすい内容に翻訳して伝えていくということ。それを何度も繰り返しやっていくことが大切です。おそらく、どれだけやったとしても「これで十分」ということはないでしょう。ただ、「ミッション」「ビジョン」「バリュー」の浸透には、そこまでやり続けていく覚悟が必要です。
なぜここまでやるかというと、長期的な目的である「ミッション」「ビジョン」を3カ月後に引き寄せたものがOKRだからです。
基本的にOKR、そして「ミッション」「ビジョン」「バリュー」も、一度決めたら3カ月は変えずに追い続けた方がよいでしょう。しかし、ビジネスや戦略、世の中の変化や外的要因などは常に変わっていくものでもあるので、経営者、幹部、人事部長は本来のゴールを正しく意識して目先の数字だけに囚われず状況に応じて変えていく必要があります。
たとえば目標に対して成果の数値が著しく乖離していたり、目的としていた事業そのものをやらなくなったり、という状況であれば目標値や目的そのものを見直した方がよいでしょう。OKRについて経営者自ら行うことが大前提なのは、このようにOKRがビジネスや戦略と密接に関連しているからです。
人は一度決めたことをいつまでも追い続けがちですが、数字だけに囚われず、その数字を「なぜ」追いかけているのか本来の意味、目的に立ち返るとよいでしょう。
OKRをはじめMBO、KPI、KGIでいろいろな目標数値を決めているかと思いますが、成果を振り返るとともに、なぜこれらの数値を追っているのか本来の目的も合わせて振り返るようにしましょう。
奥田氏はご自身の経営者、中間管理職という立場での経験から、会社や組織の目的を追いかけながら、数字も一緒に追いかけていく目標管理として「OKR」が適しているという結論に至りました。多くの成長企業で導入されていて注目が集まる「OKR」ですが、成果が出るまで時間がかかるため、導入、運用に至っては経営者の強い覚悟が必要、そしてOKRに必要な「ミッション」「ビジョン」「バリュー」を社内に浸透させるために、繰り返し「コミュニケーション」をとるというのも、ご自身の経験があってこそのアドバイスでしょう。
「OKR」に興味を持たれている経営者の方は、こちらの記事を参考に導入についてじっくり検討してみてはいかがでしょうか。
奥田 和広氏
株式会社タバネル 代表取締役
1975年大阪生まれ。一橋大学卒業。上場ファッションメーカー、化粧品メーカー、コンサルティング企業などで勤務。取締役として最大170人の組織マネジメントに携わる。
自らのマネジメント経験とコンサルティング経験を経て、成長企業の共通項OKRに出会い、2018年6月に株式会社タバネルを設立。2019年4月に「本気でゴールを達成したい人とチームのためのOKR」を出版。OKRの第一人者としてセミナー講演実績多数。
この記事を書いた人