オンボーディング Onboarding 「新卒社員」や「中途社員」が辞めない仕組みづくり
『オンボーディング』とは、新入社員をスムーズに社内に溶け込ませ、パフォーマンスを上げさせるための一連の仕組みづくりを言います。この冊子ではHR先進国であるアメリカ企業の事例も踏まえ、人材育成のための最新のメソッドを解説。
オンボーディングの具体的な取り組み方をご紹介しています。
パフォーマンス管理
公開日:2020.7.17
自身の経験から企業へのOKR導入の必要性を感じ、各企業への支援を行っている株式会社タバネル 代表取締役 奥田和広氏(以下、奥田氏)。 前編では、企業におけるOKRの有用性を認識して「起業した経緯」や「実際に企業が初めてOKRを導入する際に気を付けるべきポイント」について伺いました。
後編では引き続き、「OKRの具体的な運用方法」、「OKR運用時に注意すべきポイント」などについてお話しいただきます。
目次
まず企業がOKRを導入する際に、よくご相談いただくのが「どのくらいの規模でOKRを決めたらよいか」ということです。
もちろん全社でOKRを立てていただくのがよいですが、「いきなり全社で実行するよりもまずはテスト導入したい」という考えもあるかと思います。その場合は部門のOKRを決めて、さらにチームでのOKRを決めるとよいでしょう。事業規模やその企業のビジネス戦略にもよりますが、事業単位のOKRがあってもよいと思います。
OKRを部分導入させて成功させる第一歩として大切なことは、自分たちで決めたOKRについて、予め上席の合意をとっておくということです。例えば、グループ単位でのOKRであれば、そのグループを管轄する課の部門長、部門単位であればさらにその上の役員クラスといったように、上席者と目指す指標についての整合性の確認が必要となります。ここで合意がとれていないと、会社全体の戦略と齟齬が生じやすくなり、そもそもOKRをやる意味がなくなってしまうからです。
組織改革を進めるコツは、まず小さな成功を生み出すこと。他部門など「このやり方を真似したい」と思える賛同者をいかに多く巻き込めるかが重要です。周囲を巻き込み、積み重ねた成功体験に基づいた提案を交えたうえでトップに合意を取りに行くようにすれば、スムーズに進められるでしょう。
OKRを成功に導くために最も重要なのが、綿密なコミュニケーションです。そのためには「チェックイン※1」や「ウィンセッション※2」、「1on1ミーティング※3」などの、さまざまな方法があります。これらを効果的に使って綿密なフィードバックを行うことで、コミュニケーションが深まり、OKRの正しい成果が発揮されるのです。
なかでも、OKRを成功に導くために最も重要なコミュニケーション手法、1on1ミーティングを中心にご説明します。
チームの人数にも配慮する必要があります。Amazonが取り入れている「ピザが割り切れる人数」のような5~8人が理想的です。多くなりすぎると上司一人での管理は難しく、コミュニケーションを取るのが厳しくなります。さらに1on1ミーティングなどはできるだけ短くし、逆に頻度を増やしましょう。定期的かつ継続的に実施できるような工夫すると尚よいです。
※1 チェックイン:OKRの進捗確認とタスク確認を行う週の初めのミーティング
※2 ウィンセッション:OKRの進捗確認と課題に対する対策の検討を行う週の終わりのミーティング。メンバー同士が称賛し、モチベーション向上を図る
※3 1on1ミーティング:上司と部下が週に1回・30分程度、1対1で行うミーティング。スキルアップやキャリア形成についてなど長期的な内容も話し合う
よく、OKR導入後の管理に「どういうソフトやフォーマットを使えばいいのか」という質問を受けることがあります。管理するツールにそれほどこだわる必要はありませんが、せっかくであればOKRを可視化でき、1on1ミーティングやチェックインが記録できるものがいいと思います。そのうえで、自社に合っていて、きちんと振り返りができるものを導入するのがよいのではないでしょうか。
私が携わっている企業でも管理方法はさまざまです。専用のシステムを導入している会社やインターネット上で共有できる簡易なアプリケーションを使用している会社、定期的に全社にメール通知するという会社も。なかには原始的ですが、アナログで壁に貼り出している会社もあります。大切なのは、全従業員の目に触れることなのです。
ただし、基本的にはOKRを設定して3カ月間は変えないほうがいいと思います。会社の経営や事業レベルでは、3カ月単位で大きな変化が生じることはまれですが、個人や部門単位の場合、「3カ月」継続してやり続ければ、具体的な成果が見えてくるからです。個人、部門レベルで取り組んで成果が出始める期間の最小単位が「3カ月」と言えるでしょう。ただし、大きな変化があった場合は柔軟に変更してもよいです。
この3カ月で何らかの成果を出そうと取り組んだ場合、人は自然と「やるべき」ことにフォーカスし、優先度の高い業務に集中するようになります。あれこれ複数の目標を立てて「目標Aが達成できなそうだから、目標Bのほうをやろう」と中途半端に着手して結果としてどれも達成できなかった…という結末を避ける目的でも、「3カ月」という区切りを設定することに意味があります。
もちろん、設定した目標と実績があまりにもかけ離れたものになってしまった場合は、この限りではありません。そのあたりは状況に応じて臨機応変に対応していくべきです。
OKRを成功に導くために最も重要な1on1ミーティングですが、この時間を短いながらも充実した内容にする方法として、部下が事前に内省しアジェンダを準備しておくことをお勧めします。最近は上司にコーチング力、傾聴力を求めすぎる傾向にあるのではないでしょうか。もちろん、そういったスキルが高いことは上司として理想的ですが、上司も業務を抱えており、カウンセラー役の他にもやるべき業務がたくさんあるということを、相談する部下も覚えておかなくてはいけません。
1on1ミーティングは上司と部下が互いに成長するための時間です。特に部下はこの時間を可能な限り有効に使って、自身の成長の糧にしていく必要があります。上司が自分のために割いてくれた時間だと捉え、無駄にしないよう取り組んでいくのです。そのためには、上司の言葉をただ一方的に受け取るだけでなく、部下側もこの時間をもっと活用できるようにあらかじめ業務の振り返り行い、まとめておくことをお勧めします。相談したいことや問題点などを用意しておくことは、きっと自身の成長につながるはずです。
部下側が1on1ミーティングに対する理解を深めて臨むことも大切ですが、上司側も部下がどうすれば1on1ミーティングの時間を活用してさらなる成長につなげられるか考え、上司のほうが一方的に話して終わり、ということのないよう、部下から会話をうまく聞き出してあげましょう。
このように部下と上司がお互いに1on1ミーティングを活用して、双方の成長のために時間を使えるようになれば、自然とコミュニケーションも深まり、ORKでの成果へとつながっていくでしょう。
ここまで、部下がより積極的になって欲しいというお話をしてきました。では、上司についてはどうでしょうか。以下のような質問を設定し、毎回1on1ミーティングの際に聞くことで、部下は容易に振り返りを行うことができ、自然と内省する習慣が付きます。
<内省用ワークシート>
1on1ミーティングには、上司がチームにまんべんなく目を配れるというメリットがあります。一般的に上司はサポートが必要な人に気を回しがちで、できる部下を放っておいてしまうことも。本来であれば、できる部下をフォローするほうが、さらなる成果が見込め、会社全体にとってメリットが大きいかもしれません。これはビジネス成長の機会を逃すことにもなり、大変もったいないです。しかし、すべての部下との1on1ミーティングをルール化して実施すれば、一人当たりの時間が決まっているため、サポートが必要な人もそうでない人も均等に時間をかけられるという利点があります。
さらに、上司が前回の1on1ミーティングの内容を見返すことは部下へのフィードバックに効果的です。もちろん、部下全員分の内容を詳細に覚えておくのは難しいもの。その場合は先ほどお伝えした内省用のワークシートをシステムなどで管理することもお勧めです。
ここで注意していただきたいのは、1on1ミーティングというのは実際に行う上司にとっても部下にとっても、とても面倒なものだということです。1週間に1度など、実施する日や時間を事前に決めておかないと、特に繁忙期などはやらなくなってしまう懸念があります。実際に1on1を受けている人たちに聞くと、「上司に〇〇してほしい」という受け身の回答が多く見られ、そのことからも多くの部下が上司に依存した状態であることがわかります。そうではなく、上司と部下、双方が取り組んでいかなければ1on1はもちろん、OKRも失敗してしまうかもしれません。
「部下には成長してもらいたい。しかしムーンショット※4を決める時に、チャレンジ内容をどこまで伸長させたらよいのでしょうか」部下を持つ方から、よくこのようなご相談をいただきます。目標は高いほうがよいですが、非現実的過ぎてずっと目標達成できないままでいるのもつらいもの。このような場合、部下にとってのパニックゾーン、ストレッチゾーン、コンフォートゾーンがどのレベルにあたるか見極めたうえでフォローしてあげるとよいでしょう。
具体的な例でいうと、カナヅチの人が泳げるようになるための練習をイメージしてみてください。この人にとっては泳がなくてよい状態がコンフォートゾーンです。足のつかない水位のプールで一人放置されたら、まさにそれこそパニックになるでしょう。足がつく深さのプールで、コーチがそばにいて何かあったら助けてくれる状態で練習すれば、本人にとっては大変でも練習できなくなはない状況です。これがストレッチゾーンです。このストレッチゾーンを目指すとよいでしょう。
新しいことにチャレンジする際は、部下にとってそれがパニックゾーンかストレッチゾーンか見極めることは難しいので、まずは一旦始めてみましょう。その代わり、何かあった場合にすぐサポートできるよう、こまめにモニタリングし、なにかあれば迅速にフィードバックしてあげる必要があります。そのためにも、普段からのコミュニケーションが大切なのです。
※4 ムーンショット:大変困難で独創的だが、実現すれば大きなインパクトをもたらし革新的で壮大な計画や挑戦、目標のこと
ここでOKRの話に戻りましょう。OKRの運用には振り返りが欠かせません。私がお勧めする方法は「KPT」と呼ばれる方法です。
K:Keep(成果が出ているので継続すること)
P:Problem(問題があり改善が必要なこと)
T:Try(新しく取り組むべきこと)
これらについて、3カ月の振り返りをチーム全体で行ってもらいます。このKPTを行う際に大切なのが、いきなり「Try」の新しく取り組むべきことから始めるのでなく、まずは「Keep」の継続すること、「Problem」の改善が必要なことから洗い出すことです。他の人の「Keep」や「Problem」を聞くことで、新しい「Try」を思いつく可能性もあります。部下は、上司をはじめとする自分以外の誰かがまた次のOKRを決めてくれるというような受け身な姿勢ではなく、自主性や主体性を持って参加できるように、上司がサポートしていくことがポイントとなります。さらに、チームのOKRと全社のOKRとのすり合わせも行っていきます。そして、それらを基に個人のOKRにも落とし込んでいくのです。
「OKRは定期的に変えたほうがいいのでしょうか?」という質問をよく受けます。先ほど「OKRは3カ月は変えずに続けたほうがいい」とお伝えしましたが、OKRは変えることを前提にしたものではなく、自分たちの目標・目的に合っているかを常に意識し、短期間で精査をし続け、必要があれば変えていくものなのです。もちろん、問題意識を持つことは重要です。絶えず「変える必要があるかも」と自らに問い続け、変えないならその理由をきちんと述べられる必要があります。
また、OKRには前述のウィンセッションやチェックインも大変効果的です。できたことをお互いに称賛するウィンセッションはチーム内だけでなく、部署をまたいだものや全社などで取り組むと「あの部署はあんなことをがんばっているんだ」「うちの部署でも取り入れてみよう」など、新たな気づきもあります。加えて、お客様など社外の人からの褒め言葉もできるだけ共有しましょう。そういった普段聞けないうれしい感想を社員に還元していくことは、とても大切です。チェックインでは、先週の振り返りや業務状況の変化、その他障害の有無などOKRという高い目標へチャレンジするための状態を確認するようにします。
OKRは目的ではなく、あくまでも組織が目的を達成するための手段です。今は個人の時代といわれていますが、個人ではできない大きな仕事ができ、みんなが共通の目的を追いかけていけることが企業に属している魅力の一つ。その魅力を最大限に引き出すためにも、OKRは最も有効な方法なのです。
多くの企業でOKRの導入支援を行っている奥田氏だからこそ知る、OKRを形骸化させないコツ、注意点などについてお話しいただきました。部下は常に内省し受け身でなく自ら行動すること、上司は部下の継続的な成長のためにフィードバックを見直すことなど、経験に裏打ちされた具体的な提言は、これからOKRの導入を経験している企業はもちろん、導入後の運用に悩む方々にも有益な情報となったはずです。OKRの導入と効果的な運用で、ぜひ魅力的な組織づくりを目指してみてはいかがでしょう。
奥田 和広氏
株式会社タバネル 代表取締役
1975年大阪生まれ。一橋大学卒業。上場ファッションメーカー、化粧品メーカー、コンサルティング企業などで勤務。取締役として最大170人の組織マネジメントに携わる。
自らのマネジメント経験とコンサルティング経験を経て、成長企業の共通項OKRに出会い、2018年6月に株式会社タバネルを設立。2019年4月に「本気でゴールを達成したい人とチームのためのOKR」を出版。OKRの第一人者としてセミナー講演実績多数。
この記事を書いた人