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アンダーマイニング効果とは?事例と防ぎ方、モチベーションへの影響
公開日:2022.6.15
企業の成長のためには従業員のモチベーションや生産性の向上が非常に大切です。
従業員のモチベーションが下がってしまうことをアンダーマイニング効果といいます。
どうして従業員のモチベーションが下がるのか、その仕組みを確認しましょう。
アンダーマイニング効果によってビジネスシーンにどんな悪影響が出るのか、そしてアンダーマイニング効果を防ぐための方法も紹介します。
目次
アンダーマイニング効果とは
アンダーマイニング効果は「過正当化効果」とも呼ばれ、内的な達成感のために行っていた行為において、外的報酬などによってモチベーションが下がることを意味します。
本来、人は自分の好奇心を満たしたい、誰かの役に立ちたい、目標を達成したいといった、自分の中にある内発的動機付けによってモチベーションをアップ、または維持しています。
ですが外部から厳しいノルマを押しつけられたり、罰則を与えられたり、もしくは報酬が発生したり、第三者から評価されたりすることで内発的動機が低下してしまいます。
もともと自分の中にある内発的動機をモチベーションにしていたのにそれが外発的動機にすり替わり、結果的に本来のモチベーションが失われてしまう状態をアンダーマイニング効果といいます。
内発的動機づけと外発的動機づけ
アンダーマイニング効果を理解する上で正しく把握しておかなければならないのが内発的動機付けと外発的動機付けです。
内発的動機付けは、その人の中で発生しているモチベーションです。
自分の好奇心や探求心を満たしたい、興味がある分野に触れていたいといった、自分の中で完結するような動機は内発的動機に分類されます。
一方で、他者に褒められたい、認められたい、報酬がほしい、罰則を受けたくないなど、外部との関わりが発生する動機を外発的動機といいます。
自分の中で完結せず、第三者が関係することで外発的動機は成り立っています。
エンハンシング効果とは
アンダーマイニング効果は動機がすり替わることで本人のモチベーションが下がってしまうことを言いますが、その反対にあるのがエンハンシング効果です。
エンハンシング効果とは、外発的動機付けによって内発的動機付けをより刺激して高めていくことです。
信頼している人から褒められる、尊敬している人から評価されるといった外部からの刺激があると、本人のモチベーションが一層高まります。
褒め方、評価の仕方については、結果だけでなく過程やその人が持つ素質などに触れることが大切です。
アンダーマイニング効果の実証実験
内発的動機付けの研究のために1971年におこなわれた実証実験を紹介します。
大学生を2つのグループに分類し、3つのセッションをおこないました。
まず2つのグループに何も言わずにパズルを解いてもらいます。
次に、Aグループにはパズルが解けるとその都度報酬を与え、Bグループには何も与えないようにしました。
最後にもう一度2つのグループにパズルを解いてもらったとき、2つのグループにはどのような違いが生じるかという実験でした。
この結果、報酬を与えられたAグループはBグループと比較してパズルに触れる時間が減少しました。
その都度報酬を与えたことで、パズルを解くことが楽しいものではなく、報酬を受け取るためのものとして感じられるようになってしまったのです。
アンダーマイニング効果の原因
外発的動機付けが内発的動機付けに入れ替わることをアンダーマイニング効果といいます。
このアンダーマイニング効果が発生する外発的動機付けにはどのようなものがあるのかを解説します。
報酬や評価、締め切りなど、多くの企業が取り入れていることではありますが、気づかない内に従業員にアンダーマイニング効果が発生していないかをよく考えましょう。
報酬
報酬を設定すれば、その分従業員一人ひとりのやる気がアップするという考え方から、それぞれの成績に応じた報酬を用意している企業は多いです。
ですが報酬を設定することでアンダーマイニング効果が発生してしまう可能性があります。
従業員が、自分のやりたい仕事をしている、楽しみながら仕事をしているだけなのに報酬が発生することで、これまで楽しみながら仕事をしていたのに、報酬を受け取るためだけに仕事をするようになってしまいます。
報酬は従業員のモチベーションを上げることもありますが、一方で従業員の自主性、積極性を奪ってしまう可能性があることも考慮しましょう。
評価
従業員を業績、業務内容、スキル、性格などで評価している企業は多いです。
この評価は本人の昇格や昇給などにも影響します。
ですが、評価は外発的動機付けの大きな原因の一つです。
仕事をする目的が周囲からの評価にすり替わってしまうと、結果的に業務自体に愛着がなくなってしまいます。
承認欲求が強い性格であるほどこの傾向が強くなります。
仕事を頑張るのではなく周囲に気に入られるための努力をするようになるため、評価をあからさまに昇格、昇給に転換しすぎないようにしましょう。
競争
よりよいアイデアを生み出すために、よりよい成果を出すために従業員同士を競争させるのは、多くの企業でおこなわれています。
ノルマの達成率などを比較することで個人のモチベーションが上がる、ライバル意識が高まりさらにいい結果が生まれるという考えもあります。
ですが、その競争がかえって従業員に対してストレス、プレッシャーになっている可能性があります。
楽しみながら仕事をしていたはずなのに、それだけでは相手に負けてしまう、数字でしか評価されないと感じると従業員のモチベーションは下がってしまいます。
罰則
従業員のミスに対して罰則を設けると、アンダーマイニング効果が発生しやすくなります。
周囲から見える、聞こえる場所でミスをした従業員をしかりつけたり、過去のミスを引き合いに出して注意したりすると従業員のモチベーションが下がります。
また、罰則を設けるとその内容によっては法律違反とみなされ訴訟問題に発展する可能性もあります。
ミスに対して罰則を設けると、ミスをしないために仕事をするようになり、新しいアイデアが生まれにくくなります。
さらに、ミスを犯してもそれを隠ぺいしようと考えるようになり、ミスに気づきにくくなる、相談を受けにくくなる、あとから発覚して大きな問題となるということもあります。
監視
従業員がきちんと仕事をしているか、遅刻や欠勤を監視しすぎたり、休憩時間の態度などを監視しすぎたりすることで、従業員のモチベーションを下げてしまう可能性があります。
企業の業績をアップさせるためにはある程度従業員を監視することは必要ですが、度が過ぎないように注意しなければなりません。
常に監視されていると感じることで従業員がプレッシャーに感じたり、ストレスに感じたりして、本来の能力を発揮できなくなることもあります。
また、「この発言は問題があるのではないか」「悪く思われるのではないか」という意識が先行し、新たなアイデアが生まれにくくなる可能性もあります。
締め切り
仕事に締め切りを設定することでかえって生産性を下げてしまうことがあります。
まだまだやり込みたい仕事があっても、締め切りを守らなければならず中途半端な形で済ませたり、反対にやり込んだ結果締め切りを守れず、守った人だけが評価されたりというようなことがあると、従業員のモチベーションは下がってしまいます。
また、締め切りを守るために仕事を雑に済ませたり、他の従業員のアイデアを奪ったりといったことが起こる可能性もあります。
仕事をきちんとおこなうことよりも締め切りを守ることだけが大切という考え方が浸透しないように注意しなければなりません。
締め切りは業務をおこなう上で大切なシーンでもありますが、無意味な締め切りは作りすぎないようにしましょう。
締め切りと同様、ノルマについても「ノルマさえ達成すればいい」と思わせないようにすることが大切です。
ビジネスシーンにおけるアンダーマイニング効果の具体例
アンダーマイニング効果はビジネスシーンに大きな影響をもたらします。
企業の業績をアップさせたり従業員の能力を高めたりするためには、モチベーションの維持、向上が大切です。
アンダーマイニング効果によって従業員のモチベーションが下がらないよう、企業はよく考える必要があります。
離職率が高くなる
アンダーマイニング効果は個人の内発的動機が外発的動機にすり替わることです。
自分がやりたい仕事、興味のある仕事をしていたつもりなのに、第三者からの評価や報酬が発生することで動機がすり替わり、「報酬を得られるなら、評価されるならこの仕事でなくてもいい」と思ってしまうようになります。
その結果企業やその仕事に対する愛着がなくなり、離職率が高くなります。
外発的動機によるモチベーションが高くなればなるほど離職率が高くなるので注意が必要です。
生産性が低くなる
企業の売り上げをアップさせるためにノルマや歩合などを設定している企業は多いです。
ですが、そのために従業員自身がやりたくない仕事をしなければならない、自分の限界以上に働かなければならないといった事態が続くとモチベーションは低下してしまいます。
その結果生産性が低くなり、思うような成果が出せません。
ノルマをギリギリ達成していればそれでいいと思うようになり、それ以上の結果を出すことに意味を見出せなくなってしまいます。
職場の環境が悪くなる
よりよい成果を出した従業員を高く評価したり報酬を与えたりするのは多くの企業がおこなっていることです。
しかしそれによって従業員の中で格差が生まれ、職場の環境が悪くなる可能性があります。
報酬を与えることで個人が努力をするようになればいいのですが、一方で協力しても相手にしか利益が発生しないならやめておこう、高く評価されている人の足を引っ張ってやろうという考えも起こりやすくなります。
モチベーションを上げにくくなる
アンダーマイニング効果は一度発生するとそれを低下させるのは難しいです。
業務のミスなどに対して罰則を科すと、罰則を受ける代わりにミスを犯してもよいという考えが強くなり、罰則を廃止したとしてもその後改善する可能性は低いです。
一度アンダーマイニング効果が発生すると、それを取り戻して再度モチベーションを上げるためにより一層工夫をしなければなりません。
アンダーマイニング効果を防ぐために
アンダーマイニング効果を防ぐためにはどのようなことができるのかを考えてみましょう。
アンダーマイニング効果は先述の通り一度発生すると元に戻すのは難しいです。
そのため、事前にアンダーマイニング効果が発生しないよう業務をおこなうことが大切です。
無理強いをしない
アンダーマイニング効果は、第三者から無理強いをされていると感じることで発生します。
自ら率先して仕事をしようとしても、先に言われてしまったりルールを定められてしまったりするとモチベーションが削がれてしまいます。
評価をすることで「評価のためにがんばらなければならない」と思うようになり、監視や競争が起こることで「周囲に認められるために、周囲に勝つためにがんばらなければならない」と思うようになります。
無理強いをしないためには、ある程度本人が自由に決定できる余裕を持たせることが大切です。
本人の努力、興味などが結果として業績のアップにつながるような工夫を考えましょう。
達成しやすい目標を設定する
ノルマや目標を設定することで従業員のモチベーションがかえって下がってしまうこともあります。
あまりに高すぎる目標、達成できそうにないノルマを設定するのはアンダーマイニング効果の発生に繋がります。
ミスが増えたり、従業員の自己肯定感が低下したりする可能性もあります。
そのため、ノルマや目標を設定するのであれば無理のない数値を設定することが大切です。
簡単にクリアできるノルマ、目標を設定し、一つひとつを達成していくことで、従業員の自己肯定感が高まるだけでなく楽しみながら仕事を続けられるようになります。
また、ノルマや目標はあくまで目安であり、強制力はないものであるとすることも大切です。
良かった点を具体的に褒める
業績に対しての報酬を賃金で与えている企業は多いです。
ですが、それだけではその企業に勤めている意味、その仕事をしている意味を失ってしまいます。
仕事へのモチベーションが下がるだけでなく、離職率が高まる原因にもなります。
従業員のモチベーションを上げるために報酬を与えるのであれば、言葉で具体的に褒めるようにしてください。
個人の性質や業務の過程を丁寧に褒めることで、自分は認められている、自分はこの職場に必要だと思えるようになります。
企業への愛着心も高まり、離職率の低下に繋げることも可能です。
上司やチームとの絆が高まったりコミュニケーションをする機会が増えたりと、言葉で褒めることにはビジネスシーンにおいてさまざまなメリットがあります。
現金以外の報酬を与える
報酬として現金を与えるだけでは、仕事へのモチベーションには繋がりません。
別のもっと効率よく稼げる仕事があるのではないかと考えたり、反対に最低限の賃金や報酬がもらえるならこれ以上がんばる必要はないのではないかと考えたりするようになってしまいます。
現金以外の報酬も与えるようにしてください。
その企業にしかない魅力的な福利厚生を設定するのがおすすめです。
福利厚生は一部の従業員にのみ与えられるものではなく、すべての従業員が平等に受け取る権利があるものです。
特別休暇が多い、有給を取得しやすいといった他、ドリンクを無料で飲める、スポーツジムや映画館などの施設を利用できるなど、魅力的な福利厚生はたくさんあります。
モチベーションの理論を把握する
アンダーマイニング効果の発生を防ぐためには、モチベーション理論をきちんと理解する必要があります。
モチベーションの理論については心理学者であるマズローが提唱した五段階欲求説が有名です。
人は自己実現のために成長し続けるものとした上で、生理的欲求、安全欲求、社会的欲求、承認欲求、自己実現欲求の五つを満たすことが大切だと言っています。
生理的欲求として休みたいときに休める、リラックスした状態で働けるなどがあります。
安全欲求として自分はこの企業で安心して働ける、自分の地位を脅かされないと感じることが大切です。
社会的欲求として信頼している周囲の上司や同僚などに具体的に褒められるといったことがあります。
承認欲求として、自分が周囲に認められる、高く評価されるといった点があります。
そして自己実現欲求は、自分のしたいことを思う存分できる、自分で業務内容をやりやすいように決定できるなどがあります。
これらの理論を理解し、従業員のモチベーションが下がらない心がけをしましょう。
良い褒め方と悪い褒め方を確認しよう
アンダーマイニング効果を防ぐためには言葉でしっかり褒めることが大切です。
ですが、褒め方を間違えると結局アンダーマイニング効果が発生してしまいます。
アンダーマイニング効果を防ぐ良い褒め方と悪い褒め方を確認しましょう。
過程を褒める
業務をおこなった従業員に対して、その過程を褒めることが大切です。
本人がどう工夫してその業務をおこなったのか、本人のどんな性質がその業務に適していたのかなどを具体的に褒めることによって、従業員のモチベーションを上げられます。
反対にプロセスにミスがあった場合は、本人ではなくそれを指示した上司に問題があることも理解しましょう。
人前で褒める
本人をこっそり褒めたり、間接的に褒めたりするのではなく、本人に直接、そして周囲が見ている前で褒めることが大切です。
全社員の前で表彰するイベントを実施するのもいいでしょう。日頃から良い成果を出した従業員は褒める習慣をつけましょう。
結果のみを褒めるのはNG
従業員のモチベーションを上げるためにやってはいけないのが結果だけを褒めるやり方です。
業務は、本人がきちんとがんばっていても運次第の部分もあります。
結果だけを褒めると、本人の素質や努力ではなくその結果だけが認められることになり、結果として本人のモチベーションを下げてしまいます。
結果や数字だけではなく、従業員一人ひとりに寄り添った言葉がけを意識しましょう。
アンダーマイニング効果を正しく理解しよう
個人のモチベーションを下げるアンダーマイニング効果について詳しく解説しました。
アンダーマイニング効果が発生してしまう原因は、報酬、評価、競争、罰則、監視、締め切りなど、非常にさまざまです。
社員を評価する仕組みとして、モチベーションを維持するものとして、取り入れていたことが、アンダーマイニング効果を誘発させてしまっている可能性があります。
アンダーマイニング効果が発生すると個人のモチベーションが低下するだけでなく、企業にとっては離職率が高くなる、生産性が低くなるなどの問題を抱えることになってしまいます。
何が従業員のモチベーションを下げるのかを正しく理解し、その予防方法も確認しましょう。
FAQ
「アンダーマイニング効果」についてのよくある質問を紹介しています。
- アンダーマイニング効果とは?
- アンダーマイニング効果は「過正当化効果」とも呼ばれ、内的な達成感のために行っていた行為において、外的報酬などによってモチベーションが下がることを意味します。
- アンダーマイニング効果の逆とは?
- アンダーマイニング効果は動機がすり替わることで本人のモチベーションが下がってしまうことを言いますが、その反対にあるのがエンハンシング効果です。 エンハンシング効果とは、外発的動機付けによって内発的動機付けをより刺激して高めていくことです。
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