オンボーディング Onboarding 「新卒社員」や「中途社員」が辞めない仕組みづくり
『オンボーディング』とは、新入社員をスムーズに社内に溶け込ませ、パフォーマンスを上げさせるための一連の仕組みづくりを言います。この冊子ではHR先進国であるアメリカ企業の事例も踏まえ、人材育成のための最新のメソッドを解説。
オンボーディングの具体的な取り組み方をご紹介しています。
リクルーティング
公開日:2019.11.6
少子化が深刻化する日本(内閣府調べ)では、企業が求める求人数に対して求職者数が足りず、中小企業を中心に人材争奪が激化しています。そんな時代だからこそ「リファラル採用」の重要性を説く白潟敏朗氏。彼が代表を務める白潟総合研究所株式会社(以下、白潟総合研究所)は、総合型コンサルティングファームとして、中小企業やベンチャー企業を全面的にサポートしています。「世界No1.のコンサルティングファームになる」を企業のビジョンに掲げ、採用コンサルティングを中心に企業を支援しています。
前回はリファラル採用のオピニオンリーダーとして業界を牽引する、白潟敏朗氏にリファラル採用の基本的なメリット・デメリット、導入方法などをお話しいただきました。
(『人材争奪時代が到来!「リファラル採用」が勝ち抜くポイント!(前編)』はこちら)
後編となる今回は、同氏に「リファラル採用」を成功させるためにはどうすればいいのか、その実践的な準備内容やノウハウについて伺いました。
目次
多くの会社をサポートしていて気付くこととして、リファラル採用について「親友や仲のよい友人を紹介しないといけない」「自分には人脈がない」と思い込んでいる会社が多いですが、それは大きな誤解です。実はリファラル採用で重要なのは、自分の知人・友人の輪だけでなく、その一つ先にある人脈、つまり「二次人脈」を活用するという考え方なのです。このような考え方になることを私たちは「リファラル脳になる」と呼んでいます。
前回お伝えしたアタックリスト(リファラル採用の候補リスト)に自分の親友の名前を入れてもらうのは、その親友に直接リファラル採用を提案しようということではなく、そこから広がる人脈がリファラル候補になり得る可能性が高いという理由からです。自分と直接つながりのある人だけを候補と考えるのではなく、その先を見て、掘り下げていくことで候補は広まっていくのです。
例えば、あるフリマアプリの運営会社では、エンジニアのリファラル率が80%を超えていると聞きます。その会社の採用担当者は個人的に参加した結婚式の披露宴でも親友の知り合いなどと名刺交換をして、リファラル採用のアンテナを張っているそうです。社員がそこまでリファラル採用に熱心になってくれるのは、やはり会社と社長が好きだからこそ。そこまでしてもらえる社長は大変幸せ者といえるでしょう。
このように、親友の知り合いや親族の子供の友人、時には顔見知りの飲食店の店員さんや美容室のスタッフさんまで、二次人脈、三次人脈を使うことで、劇的にリファラル採用の枠を広げることができます。ですので、リファラル採用をお考えの方は、ぜひ「リファラル脳」になることを意識してみてください。
リファラル採用に成功したとしても、その成功を持続させるために必要となるものがいくつかあります。その一つが「アピールブック」です。
アピールブックとは、会社が大切にしている想い、魅力と課題、ビジョンや人事制度などをわかりやすくまとめたもので、リファラル採用に必要不可欠なツールです。シンプルなデザインで1枚につき1テーマを記入し、良い面も悪い面も偽りなく書くことが大切です。最も重要なのは最初の3ページで、『1. 会社紹介』で魅力を説明し、『2. 課題として悪い部分』、『3. 中期経営計画』で課題の解決・改善方法について説明します。
その際に出す数字は必ず正直に、嘘のない数字を出すようにしてください。退職率などのマイナス面も正直に出しましょう。前編でもお伝えしましたが、すべてにおいて嘘は絶対にいけません。正直に打ち明けることが大切なのです。
とはいえ、企業としてはすべての情報を公表することに躊躇する部分もあるかもしれません。しかし、これはリファラル採用には必須なのです。なぜなら、仮に隠しごとや嘘の情報でリファラル採用が決まっても、入社後に嘘だとわかればその社員はいずれ辞めてしまうからです。場合によっては、紹介してくれた既存社員まで会社を離れてしまうかもしれません。だからこそ、残業時間や職場環境、ある社員の具体的な1日など、会社の内情まで最初に打ち明けて、理解・納得のもとで入社してもらうべきなのです。
基本的には新卒でも中途でも同じアピールブックを使い、情報を開示します。会社の魅力(良い面)は存分に伝えつつ、課題(悪い面)もきちんと公開する。その課題を念頭に置き、中期経営計画で解決策を伝えるのです。この中期経営計画は全社員が集まる場で、1ヵ月ごとに定期的に振り返りましょう。そこでは、達成できたこと・できなかったことを社員全員で共有します。そこで、立てた計画に対し改善を重ねていきましょう。そうすることで。中期経営計画の形骸化を防ぐことができます。学生は中期経営計画から企業の状況を理解し、きちんと解決方法が示されていることで会社に明るい未来を感じることができるはずです。
私たちがサポートしている企業では、リファラル採用同様に新卒向けの企業説明会でアピールブックを出す、「説明会リファラル」を始めています。以前は新卒向けの説明会の場合、参加者すべてが入社希望というわけではないため、アピールブックまでは推奨していませんでした。しかし、学生たちにとって会社の本来の姿が見えるアピールブックは大変喜ばれるとわかりました。今では全社に「説明会リファラル」をおすすめしています。ただ、日本全国で考えると、会社説明会でそこまで情報を開示している企業はまだまだ少ないのではないでしょうか。
特に新卒採用においては、アピールブックを家族に見せることで安心してもらえるので、説明会からもリファラル候補になる学生が増えるとよいでしょう。
実は、このアピールブックを作ることは採用以外にも会社にとって非常に有益です。社内の福利厚生や職場環境など、自社の改善点がはっきりと浮かび上がるため、それをいかに検討・実施していくことができるのです。実際に、ボロボロだった本社ビルの修繕に取りかかったり、長年そのままだった賃金テーブルの見直しを始めたりした会社もあります。アピールブックが経営改善を促すことにもつながったのです。
ある企業からお聞きした話なのですが、実は採用の責任者が社長と会社を一番嫌っていることが多いそうです。こういった事実は、29年間で約12,600社の方々と会ってきた私も実感しています。また、リファラル採用に取り組んだときに、リファラル採用の候補者に一番連絡を取らないのも人事担当者だと言われています。前編でお伝えしたように、リファラル採用を成功させるためには、社長と会社が好きな人が人事担当者でなければ、絶対に上手くいきません。
採用とは、つまるところ求職者向けの「会社のマーケティング」です。自社商品のマーケティングや営業をするときも、「自社商品が好き」だから一生懸命取り組みますよね。それと同じように、採用担当のポジションには、採用スキルが乏しくてもよいので、社長と会社が好きな人を必ず責任者としておいてください。採用スキルは担当者になった後でも身につけることができます。
では、社長と会社が好きな人を採用担当者に置いた後、何をすればよいのでしょうか?それは、「経営理念のマーケティング」です。なぜかというと、大企業と中小企業を比べたときに、中小企業の方が待遇面では及ばないことが多々あると思いますが、ポジショニング、つまり、求職者に会社の魅力を上手く伝えられると大企業に勝てる可能性が最も高いのが、「経営理念」だからです。
経営理念は「その会社はどういった事業をしているのか」「どういった人材が欲しいのか」について訴求するためのツールとして最大限にその価値を発揮してくれます。もしあなたの会社の経営理念にそう言った内容が含まれていなければ、経営理念を変えなければならないかもしれません、このとき美しい文章にする必要はありません。経営理念は、簡潔かつシンプル、そして会社が何のために存在しているのかを盛り込んでください。
その際に、社長の好きな言葉や口癖が入っているかどうかが重要です。経営理念が社員一人ひとりにまで浸透している会社は全国1%程度です。その会社の経営理念が持つべき最重要事項の特徴は何かと言うと、社長の口癖が入っていることです。社長の口癖が入っていないと経営理念は浸透しないということです。経営理念は経営者の想いを社内や社外に伝えるために非常に有効なマーケティングツールです。必ず社長の口癖を入れてください。
あるアパレルの会社では、採用の時に経営理念を候補者に見せて、洋服が好きかどうかを聞いています。その場で「洋服があまり好きでない」と答えた人は採用を控えているというところまで徹底しています。このように、会社の理念に共感できない人を入り口の段階で絞ることもできます。採用の時に経営理念を提示すると、応募の数は減るかもしれませんが、理念に共感する人も必ず一定数います。経営理念に込めた想いで優位に立つことが究極のポジショニングでしょう。
そして、最後に重要なのが社長自身の行動です。今までの経験上、社長が真摯に取り組んでいない会社は、リファラル採用を導入してもうまくいかないことがほとんどでした。これは、社長が率先垂範して動かないと幹部や社員も動かないからです。もし最近候補者に会っていないという経営者の方は、経営者である社長自ら候補者に声をかけ、会うなどして、汗をかいてみてはどうでしょうか?リファラル採用は一度上手くいきはじめると、その後採用に悩むことは基本的になくなります。コストも最小限で済み、なにより社員の離職の心配も激減しますので、まさに正のスパイラルが生まれるはずです。
前編・後編と二部に分けてご紹介したリファラル採用。先駆者である白潟さんの言葉には、採用への熱い情熱と冷静な戦略、両方が織り込まれていました。採用する側とされる側、双方にとってメリットの大きいリファラル採用に魅力を感じずにはいられません。
そして、良い人材をリファラル採用で獲得するには、「リファラル脳になること」「アピールブック」「経営理念」が重要であるということもよくわかりました。皆さんの会社でも、まずどれか一つから始めて、リファラル採用や会社の魅力アップの足がかりにされてはいかがでしょうか
白潟 敏朗(しらがた としろう)氏
1964年神奈川県生まれ。経営コンサルタント。白潟総合研究所株式会社代表。埼玉大学経済学部を卒業後、1990年よりデロイトトーマツにて経営コンサルタントを経験。IPOコンサルティングなどでキャリアを積み、1998年にISOコンサルティング・審査会社を立ち上げる。3000社以上を支援。2006年にトーマツ・イノベーション株式会社代表取締役就任。7800社のお客様に定額制研修イノベーションクラブで中小ベンチャー企業の人財育成にイノベーションをおこした。2014年10月に独立し白潟総合研究所を設立、2017年にリファラルリクルーティング、2018年に1on1株式会社、2019年にソーシャルリクルーティング株式会社を設立、現在に至る。
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