オンボーディング Onboarding 「新卒社員」や「中途社員」が辞めない仕組みづくり
『オンボーディング』とは、新入社員をスムーズに社内に溶け込ませ、パフォーマンスを上げさせるための一連の仕組みづくりを言います。この冊子ではHR先進国であるアメリカ企業の事例も踏まえ、人材育成のための最新のメソッドを解説。
オンボーディングの具体的な取り組み方をご紹介しています。
テレワーク
公開日:2020.6.18
2020年5月20日(水)に、「afterコロナ、withコロナの働き方」と題した、メディア向けの勉強会が開催されました。今回のコロナ禍は、今後の働き方を見直すきっかけともなっているとして、実際に働き方はどう変わったのか、そして、今後どうなっていくべきかを、牽引者となるべき企業で協同し伝えていこうと企画されました。
パネリストとしてインターネット上に集まったのは、サイボウズ株式会社、パーソルキャリア株式会社、株式会社キャスター、株式会社OKANの4社。各社ともに、コロナ禍の前から積極的に働き方に取り組んできた企業です。先述のテーマのもと、緊急事態宣言で企業はどう変わったのかを各社の働き方の変遷、変化と取り組み、今後を含めて、それぞれお話しくださいました。
目次
[パネリスト]
サイボウズ株式会社
コーポレートブランディング部長
大槻 幸夫氏
クラウド上で情報共有するシステム「kintone(キントーン)」を中心に、さまざまなサービスを提供するサイボウズ株式会社(以下、サイボウズ)。同社は、まだ言葉すら浸透していなかった10年前から、在宅勤務やテレワークを社内制度として導入し、段階的に取り組んできました。
もちろん初めからすぐに浸透したわけではなく、当初は社内で取り入れる際の前提条件も厳しかったため、定着させるのは難しかったそうです。導入・浸透のために試行錯誤していた矢先に起こったのが、2011年3月に発生した東日本大震災でした。混乱して当然という状況にありながら、事前のさまざまな試みが功を奏し、決算時にもかかわらずスムーズにテレワークへの移行に成功。さらにその経験を、新型コロナウイルスによる影響で、混乱のさなかにいる企業に共有しようと、Webサイトを開設。「がんばるな、ニッポン。」という会社員が目を引くような新聞広告を打ち出すなど、積極的な発信が注目されています(※1)。
大槻氏のお話で特に印象的だったのが、テレワークを成功させるためには個人ワークからチームワークへと変わっていかなくてはならず、それには『情報共有』から『状況共有』へと変化する必要があるということです。そのためサイボウズでは、クラウド上にオフィスを再現。そこに部署やチームに縛られず全員が情報を共有できる仕組みを導入し、オープンチームワークを実施。社長の予定も個人の予定もすべて公開されており、誰でも見られる状態にしています。また、経営会議の議事録も開催当日中に全従業員へ送信されるそうです。
実際にテレワークを始める前は「成果の判断」「勤務時間や働き方の管理」「コミュニケーションコストの増加」といった懸念材料がありましたが、これらの取り組みによりテレワークが浸透しない要因ともなっているコミュニケーション不足や孤立感を減らせただけでなく、すべての情報を知ることで従業員が経営的な目線も持てるようになったといいます。これからの働き方には物理的なオフィスとクラウド上のオフィスをうまく使いこなしていく必要があり、それを成功させるポイントがオープンチームワークなのだとお話しいただきました。
※1サイボウズの「テレワーク」に関する情報を公開します
https://telework.cybozu.co.jp/
HR BLOG編集部がサイボウズ株式会社を取材させていただいた記事も併せてご覧ください
https://dev.motifyhr.jp/blog/engagement/interview_cybozu/
[パネリスト]
パーソルキャリア株式会社
執行役員 兼 doda編集長
大浦 征也氏
転職の支援や求人情報の発信などを手がける、人材サービス大手のパーソルキャリア株式会社(以下、パーソルキャリア)。同社では新型コロナウイルスで社会全体が影響を受けるなか、迅速に転職・採用マーケットについての調査を行いました。その数字から見えてきたのは、有効求人数は急激に低下したものの、求職者数はそれほど変化していないということ。今回のコロナ禍で企業が採用を見送ったとしても、転職については長期視点で考えている人が多いことが要因ということでした。そしてそれは、企業にとって今こそ優秀な人材を確保するチャンスとも捉えられます。
しかし一方で、求職者による就職の決め手は変化してきているそう。昔のように企業のネームバリューや待遇、給与面、将来的な期待値ではなく、転職条件として在宅勤務、テレワーク、フレックスといった「働き方」に関するキーワードが急上昇しているといいます。その企業で自分が働く意味を考えるような、新たな価値観を持つ世代が就職活動する時代になってきたのです。
いずれにせよ、採用マーケットは新型コロナウイルスの影響を大きく受け、急激な買い手市場へと転じつつあります。採用活動のオンライン化、採用計画リプラン、採用競合マーケットを意識した差別化と、活動方法を変化させている企業もあるそうです。競合他社が採用を控えていることも多いこの時期、それをあえてチャンスと捉らえ、企業ブランド自体を採用における競争力にできる会社が、採用活動で勝ち残れるのではないかと大浦氏はおっしゃっていました。
[パネリスト]
株式会社キャスター
代表取締役
中川 祥太氏
宮崎県に本社を置く株式会社キャスター(以下、キャスター)は、オンラインアシスタントサービスなどの人材事業を展開。創業6年目にして、利用企業数は累計1,700社を超えています。特筆すべきは、在籍する700名ほどのメンバーのほぼ全員がテレワーカーということです。「700名規模が一堂に会すると費用が億単位でかかります。リアルで会わなくてもさまざまなツールでコミュニケーションがとれているので、業務に支障はありません」と語る中川氏。
今回の新型コロナウイルスによるテレワークへの転換ではなく、創業時から「リモートワークを当たり前にする」をミッションに掲げ、場所に縛られることのなく、多くのメンバーが活躍。採用時には場所だけでなく、年齢や学歴、性別にも格差はありません。完全な実力主義で平等に活躍する機会を得られるうえ、副業も複業も自由と、働き方に対する柔軟さも魅力となっているようです。こういった今の日本ではまだまだ珍しい雇用形態を、先陣を切って導入したキャスター。そもそも企業の考え方として場所という概念が薄いため、社内のコミュニケーションも自然とチャットツールやWeb会議ツールを使って行われ、ミーティングや社内イベント、オンライン飲み会も頻繁に開催されていたそうです。
このように、新型コロナウイルスの感染が拡大する前からテレワークを基本としてきた中川氏は、afterコロナ、withコロナを見据えた働き方として、今後は『ワークライフブレンド』という考え方が大切だと話されていました。新型コロナウイルスが収束したとしても、企業にとってメリットの大きいオフィスレス、通勤レス、ボーダーレス(距離や時間的な)は進み、テレワークは浸透していくでしょう。そのためには、生活環境に強制的に仕事が入り込むのではなく、うまくブレンドしていける状態が必要です。
そのためには、自由度が高く透明性のある人事評価制度を整備することが重要です。従業員を「●●してはいけない」という禁止事項で縛るよりも、「●●してよい」と緩める方向が望ましいと中川氏は語ります。住宅環境や家族形態などは各人で異なるため、その個人の生活を仕事によって浸食しないように、個人が働き方を選択していける状態をつくっていかないといけないと提言されていました。
キャスターでは、キャスターグループ働き方図鑑/Work Style book(※2)を公開。多様な働き方の参考として、豊かな自然を求め高尾山のふもとに拠点を構える、トレイルランナーとして活躍している従業員の実例など、自社のスタッフたちを紹介されています。
※2キャスターグループ働き方図鑑/Work Style book
https://speakerdeck.com/caster/work-style-book
[パネリスト]
株式会社OKAN
代表取締役 CEO
沢木 恵太氏
「働く人のライフスタイルを豊かにする」をミッションに、オフィスへの置き惣菜というユニークな事業「オフィスおかん」を展開する株式会社OKAN(以下、OKAN)。食に特化した福利厚生が注目を浴び、今では2,000社もの企業に導入されています。そして、今回の新型コロナウイルスによって一気に増えたテレワーカーたちを支援するために新サービス「オフィスおかん仕送り便」をスタート。自粛による外出制限や育児家事負担の増加、社内のコミュニケーション不足を解消する一端を担うことを目的としています。
人口減少と高齢化によって、労働力不足が叫ばれている近年、なんと、このままいくと人口の半分しか働けないという可能性もあるといいます。もちろん、今は新型コロナウイルスの影響で求人数が減少するという状況が起きていますが、人口が増えない限りは採用難が起こりうるのではないかと予想されています。そこで重要となってくるのが、リテンションマネジメント(人材定着/離職防止)です。今までの一括大量採用から、優秀な人材が定着し、長期に渡りその高い能力を発揮し続けていけるように、従業員の就業環境を整備することを重視していかなくてはならないと沢木氏は語ります。もちろん採用戦略は進めつつ、定着にもっと力を入れていかなくてはいけないということです。
厚生労働省の調査結果によると、従業員が離職する要因としてはハイジーンファクター(※3)が8割となっているそう。もともと日本ではかなりの金額の法定外福利厚生費が使われていたそうですが、その方向性、使い方が現代とマッチしていない可能性が考えられます。そこでOKANでは、今回のコロナ禍で引き起こされた自宅消費などを福利厚生の一環として支援する「企業仕送り」を提案。それが、「オフィスおかん仕送り便」なのです。「今後もテレワークは進んでいきますが、インフラのように出勤が必要な業種もあり続けると思います。企業仕送りのような仕事と生活の両立を助けるための支援が必要になってくるのではないでしょうか」と語る沢木氏。今後こういったモノでの支援はもちろん、お金や仕組みなど「企業仕送り」がスタンダードになっていけば、テレワークによって引き起こされたさまざまな課題の解決になっていくのではないでしょうか。
※3ハイジーンファクター:直訳すると衛生要因。産業心理学者フレデリック・ハーズバーグによる研究により、仕事上での満足・不満足を引き起こすものとして、自身の健康や、家庭と仕事の両立、会社の人間関係などの職務内容以外のものが、ハイジーンファクターと名付けられた
HR BLOG編集部が株式会社OKANを取材させていただいた記事も併せてご覧ください
https://dev.motifyhr.jp/blog/onboarding/interview_okan/
今回の勉強会では、新型コロナウイルスの発生前から働き方に重きを置き、自社の取り組みを模索してきた4社からの貴重なお話を聞くことができました。それらは、今まさに困難な状況のなかでテレワークに取り組み、事業活動を行っている多くの企業の示範となるのではないでしょうか。
新型コロナウイルスをきっかけに、多くの企業がどう行動すれば環境や市場の変化に柔軟に対応し、事業を継続させることができるか、向き合わざるをえない状況となりました。もちろん、業種や企業規模によって取り組み方は異なりますが、今回の各社のお話を、前例のないafterコロナ、withコロナ時代の働き方の参考にしてみてはいかがでしょう。
サイボウズ株式会社
コーポレートブランディング部長
大槻 幸夫氏
2005年にサイボウズ株式会社へ転職。製品プロモーションやマーケティングに従事し、2012年にサイボウズ式を立ち上げ初代編集長として活躍。その後、コーポレートブランディング部長に就任。2018年からはワークスタイルエバンジェリストに就任し、自身の経験をもとにサイボウズ流の働き方改革を企業に伝える活動もしている。
パーソルキャリア株式会社
執行役員 兼doda編集長 ※
大浦 征也氏
2002年、株式会社インテリジェンス(現:パーソルキャリア株式会社)へ入社。法人営業として人事コンサルティングなどを経験したのちにキャリアアドバイザーへ。これまでに支援した転職希望者は10,000人を超える。2017年より現職、2019年には執行役員に就任。JHR(一般社団法人人材サービス産業協議会)をはじめ、社外でも活躍している。
※2020年5月時点の役職です
株式会社キャスター
代表取締役
中川 祥太氏
古着屋の経営、ネット広告代理店のオプト社、社内ベンチャーへの出向などを経験後、大阪へUターンし、アウトソーシングサービスを手がけるイー・ガーディアン株式会社へ入社。国内のクラウドソーシング市場とオンラインワーカーが抱える多くの課題に問題意識を持ち、2014年に株式会社キャスターを創業。
株式会社OKAN
代表取締役 CEO
沢木 恵太氏
2008年中央大学商学部卒。経営コンサルティングを行う一上場企業にて新規事業開発、ベンチャー企業でゲームプロデューサー兼事業責任者を経て、EdTech領域のスタートアップに初期メンバーとして参画。その後、2012年12月に株式会社OKANを設立。「働くヒトのライフスタイルを豊かにする」をミッションに、2014年3月、法人向け置型社食サービス「オフィスおかん」をリリース。その後、2019年7月、人材定着のための組織改善サービス「ハイジ」をリリース。
この記事を書いた人