オンボーディング Onboarding 「新卒社員」や「中途社員」が辞めない仕組みづくり
『オンボーディング』とは、新入社員をスムーズに社内に溶け込ませ、パフォーマンスを上げさせるための一連の仕組みづくりを言います。この冊子ではHR先進国であるアメリカ企業の事例も踏まえ、人材育成のための最新のメソッドを解説。
オンボーディングの具体的な取り組み方をご紹介しています。
人材育成・開発・研修
公開日:2021.2.5
仕事をする多くの人が「認めてほしい」という承認欲求を持ち、それがモチベーションの維持や向上につながっています。しかし現代では従業員の承認欲求が過度になる場合もあり、職場に悪い影響が及ぶケースもあるようです。彼らをマネジメントするにはどうすればいいのでしょうか。
家族、恋人、友人など、周囲の人間から「自分の存在を認められたい」「自分の価値をもっと認めてもらいたい」と思う気持ち=承認欲求は誰にでもあるものです。SNSで「いいね」を押して欲しいと思うのも、承認欲求に他なりません。そして職場では、成果を認められることや、昇給や昇進などの評価によって、承認欲求が満たされます。それがモチベーションをあげるための原動力になると言ってもいいでしょう。
承認欲求についての研究では、1948年に心理学者アブラハム・マズローが発表した「欲求5段階説」が有名です。マズローは、人間の欲求は(1)生理的欲求、(2)安全欲求、(3)社会的欲求、(4)承認欲求、(5)自己実現欲求という5つの階層で構成されていて、手前の欲求がある程度満たされると、次の段階の欲求が生じると提唱しました。
この説が唱えられてから70年以上が経過し、「承認欲求」の位置づけは変化しているとの説もありますが、根本的な考え方は大きく変わりません。承認欲求は、人間の心理作用において当たり前の心の動きで、(5)自己実現欲求という高いレベルへの到達を目指すために、避けては通れないものです。
現代は、成果主義が主流であり、ある意味ミスが許されない雰囲気が蔓延しています。一昔前のように企業に余裕があった時代と比較して、従業員は職場で自分の居場所を確立しなければいけないプレッシャーを受けていると言えるでしょう。
それゆえに、部下世代は「いかに周りから認められるか」に思いのほか注力しています。上司世代には、それが承認欲求の強さとして感じられるのです。
承認欲求を仕事へのモチベーションの表れと考えれば、決して悪いものではありません。むしろ承認欲求が強い部下ほど、伸びしろがあるとも言えるでしょう。承認欲求を満たすための工夫や、心のコントロールが上手くいってないのが問題なだけです。
承認欲求が強いと「責任のある仕事に挑戦したい」「スキルアップして役職に就きたい」といった気持ちから自己研鑽に励むようになります。自分の頑張りを上司にアピールし、認められたことを誇りに感じてさらに頑張る、という好循環が生まれるでしょう。
従業員の承認欲求を満たすには、職場では上司が一番の存在です。従業員の能力、長所、貢献、努力に適切なフィードバックを与えて、承認欲求が過度に表出しないように対処していくことも上司には求められます。
「承認欲求が強い部下に振り回されて困っている」という上司も多いでしょう。しかし部下もまた、無意識のうちに自分の承認欲求をコントロールできずに苦しんでいるのだとと考えるべきです。彼らが内に秘めている成長意欲やモチベーションを形にするのは、上司の役目だと言えるでしょう。
いまどきの上司と、いまどきの部下では、仕事に対する価値観も異なります。「私たちの時代はこうだった」と、若い世代に価値観や考え方を押し付けるのは考えもの。どうすれば部下の承認欲求を満たしながら、ゴールまで到達させられるかを考えることが、上司に、そして企業側に求められています。
「自分の努力を認めてほしい」というストレートなアピールの他に、「実はこんな言動も承認欲求の表れだった」というケースが存在します。その特徴を紹介していきます。
(1)自己アピールが強い
「仕事をやめたい」「調子が悪い」といったアピールや、些細なことを誇張した表現、失敗したときの落ち込みの激しさ。さらに、目立つ仕事ばかりやりたがり、地味な仕事を嫌がるなどの言動を取る人物は、「構ってほしい」「心配されたい」という形で、承認欲求を満たそうとしていると言えます。
(2)不平や不満をまき散らす
自分が不当な扱いを受けていることをアピールする。認めてもらえないことを理由にキレる。そういった言動は、承認欲求がネガティブな方向に表出してしまっているタイプです。
(3)他者からの評価を極端に気にする
人からどう見られているかが気になって、ありのままの自分が出せない状態も「能力のある人物だと思われたい」という承認欲求が影響しています。「こんなことを質問したら呆れられてしまうのでは?」という不安から消極的になるケースもあるでしょう。
(4)話を聞くのが不得意で言い訳も多い
何事も自分に都合よく解釈して、何度説明しても仕事が覚えられない、自分は間違っていないという言い訳がでるのも、「自分の考えを認めてほしい」という承認欲求の強さゆえです。
(5)他者をよく褒める
相手を頻繁に褒める人物は、無意識に「自分のことも認めてほしい」と考えている場合があります。
(6)他者に対して上から目線で接する
学歴や武勇伝を披露して、相手の上に立とうとする。敬語を使わない。年下の上司を“君付け”で呼ぶ。こういった言動は、自分の存在価値の高さを周囲に認めさせようという思いの表れです。
(7)「どうせ無理」と思い込んでいる
普段は無気力に見えるものの、「本当は認めてもらいたい」と思っている人もいます。辞めずに会社に籍を置いているのは、自分の能力を発揮するきっかけを求めていると考えられるでしょう。
ご紹介した(1)~(7)のタイプは、それぞれ特徴が異なるものの、承認欲求を抱いて勤務しています。「扱いが厄介」「面倒な人物」と思われがちな人物でも、きちんと向き合っていけば能力を発揮してもらえるようになります。
具体的には、目を合わせて名前を呼ぶ、相手の話を傾聴する、詳しい理由をあげて称賛する、感謝を伝えるというのが、承認欲求が高い従業員との適切な接し方になります。
名前を呼び、目を見て接することは、相手を承認する第一歩。また、相手の話を聞く際にはしっかりうなずいて理解したサインを送り、時には相手の言葉をそのまま繰り返して受け入れる姿勢を示します。相手を称賛するときは、努力の過程、成果物の出来栄え、内面やセンスなどを具体的に褒めると、より信頼関係を強くできます。そして、企業側や上司がストレートに感謝を伝えることで、従業員は「認められた」という実感を得ることができるのです。
また、時には厳しくしかることも、相手の存在を承認することになります。上司がイライラをぶつけるような叱り方や、人格を否定するような叱り方は論外ですが、具体的な助言を与えて成長に期待するような叱り方であれば、従業員の承認欲求を満たす効果が期待できます。
承認欲求の強い従業員に振り回されて、ストレスを感じている上司もいるかもしれません。しかしながら、承認欲求は「成長したい」「成果を出して認められたい」という思いの表れだと考えて、前向きなものとして捉えていくべきです。
職場で従業員たちの承認欲求がどんな形で表現されているのかは、性格によって異なります。どうすれば彼らの能力を高められるのか、従業員の承認欲求を満たす視点から考えてマネジメントしていってください。
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