スカウト型就活サービス『キミスカ』を運営する株式会社グローアップ。
2013年のリリース以来、これまで全国30万人以上の学生が『キミスカ』を利用しています。最近の売り手市場において、企業が自ら学生にアプローチを行う「ダイレクトリクルーティング」は「攻めの採用」と呼ばれ、ますます注目を浴びています。
今でこそ、『キミスカ』により著しく成長を続けるグローアップですが、実は50人いた社員が半減する事態に陥ったこともあるとのこと。そこで、グローアップが実際に業務改善として行ってきた取り組みや、自社サービスをブラッシュアップさせた経緯について詳しく取材し、同社の成長の理由を紐解きました。
同時に、コア事業として「採用」にフォーカスを当てる同社から見た、今後の採用市場の動向についてもご意見を伺いました。
お話を伺ったのは、新卒事業部の末松 怜央氏と渕田 暢亮氏です。終始、和気あいあいとした雰囲気で「ありのまま」をお話しいただきました。
目次
自分が頑張ってきたことをありのままに表現!グローアップが提唱する「偽らない就活」
今回、自社サービスの技術や精度の価値までもを見直し、より洗練した内容にすることで、日本の採用に対して「偽らない就活」という言葉を掲げたグローアップ。その背景について詳しくお伺いしました。
サービスを変化・進化させるに至った背景について詳しくお聞かせください。
末松氏:
今、新卒向けのダイレクトリクルーティングに関するサービスの領域はバッティングが激しく、正直、機能面での大きな違いは各社サービスともあまりないような状態です。そこで、機能面ではなく、情緒面での違いを押し出そうという考えに至ったのが見直しを始めたきっかけです。「キミスカ」が「誰に対してどんな価値を提供していくのか」「これからどこを目指すのか」「他社と何が違うのか」というところを、全社で改めて考え直しました。
その結果、コンセプトをより明確に打ち出すことにし、「ありのままの自分を好きだと言ってもらえる喜びを、キミへ。偽らない就活を。キミスカ」というメッセージにたどり着きました。これは、サイトトップページにも載せているキャッチコピーです。このキャッチコピーをパッと見ただけだと、グローアップの事業内容全体は詳しく分からないかもしれません。でも「偽らない就活」「ありのままの自分を好きだと言ってもらえる就活」を応援する企業であるということはわかるはずです。それを伝えることを一番に考えました。
それに伴って、自社で運営しているコラムサイトの内容も変わりました。以前は、学生インターンの子たちに他社の昼休みにインタビューに行ってもらうようなカジュアルな記事を掲載していました。しかし、今回は自己分析や自己PRのやり方など、就活を進めるうえで、自分と本気で向き合うためのアドバイスに関する記事が多くなりました。
今、日本に50万人いる就活生たちは、アルバイトやサークルなど、何かに力を入れて頑張ってきた学生たちだと思うんです。でも、そういう学生たちが急に就活というフィールドに立った時、「結局、自分は何を頑張ったんだろう」と思ってしまうのは多々あることです。そういう迷いを感じたときにありがちなのが、内定をゴールにしてしまうことです。「アピール内容を目指す企業に寄せていこう」、「企業ごとにアピールを変えよう」「日本一になった実績がないとアピールできないんじゃないか」、「海外で何かやった実績がないと注目してもらえないんじゃないか」、そんな風に思っている学生が多いんですよね。でもそうではなくて、「自分が力を入れて頑張ってきたことをありのままに表現することが大事なんだ」ということを、コラムなどを通して配信しています。
採用担当として本当に知りたいのは、実績よりその人が持つ価値観と、それを社会の中でどう活かしていけるのかということです。その認識に、就活生と企業の採用担当の間でかなり乖離があると思うので、そのギャップをなくしていくための発信をしていきたい、というのも今回サービスを見つめなおした経緯です。
結果、一番大きく変わったと感じるのは社員のモチベーションです。実を言うと、それも目的のひとつだったんですが、見直しを経て、「競合サービスと何が違うんですか?」と問われたときに、社員がみんなきちんと自信をもって答えられるようになりました。営業のメンバーも、単なる機能や実績以外のところで「私たちはこういう価値を提供できます」と自信をもってお客さんに伝えられるようになったと聞いています。サービスと同様、社員も変化・進化できたんです。
渕田氏:
そもそもこの見直しはトップダウンではなく、『キミスカ』に関わる事業部の全員で決めたことなので、それだけ社員の思いも強く反映されています。
『キミスカ』を通して私たちがどういう思いを発信していきたいか、どういう人たちのためのサービスでありたいかということを、全員で時間を取って半年以上かけて作ってきたものなんです。そういう意味で、自分たちの思いが乗ったサービスになった、という実感が大きいので、社員のモチベーション向上にも影響しているのだと思います。
また、プロジェクト見直しの際には外部のコンサルタントの方にも入っていただき、きちんと成長のプロセスを理解したうえで進められたことが良かったです。頭でっかちに理想だけを語るのではなく、色々な事実と照らし合わせながらペルソナやカスタマージャーニーも考えました。それももちろん、事業部全員で行っています。そこで出た意見をすべて吸い上げて、今の形に落ち着きました。
同時に、コンセプトムービーの作成も行いました。実際にキミスカを使用していた就活生や企業にヒアリングを行い、今私たちがキミスカを通して伝えたいことにフォーカスした内容になっています。グローアップの目指す方向性を理解する、という意味では、社員向けの動画でもあります。
順調に成長を続けている『キミスカ』ですが、大変だった時期などはありましたか?
末松氏:
5年前、私が入社したときは離職率がかなり高かったです。その当時在籍していた社員が一気に半減した時期もあり、そのときに社内体制を見直しました。
原因の一つは販売するサービスの多さでした。今と社員の人数がほとんど変わらないのに、当時は各サービスを扱う事業部が6~7個くらいあったんです。それだとどこの領域も中途半端になってしまい、結果として人がいなくなってしまいました。それで、事業部を注力する主軸の3つに縮小することにしたんです。新卒事業部、中途飲食事業部、中途不動産事業部の3つにフォーカスして、各分野でナンバーワンを取ろうという戦略に切り替えてからは離職率が大きく変わっていきました。安定してきたので、今年の2月から新しく事業部を増やすこともできました。離職する人は今では年間で1~2人程度ですね。売上の成長率も5年前と比べると比ではないです。利益率も相当上がりました。
直近で辞めていったメンバーも、後ろ向きな理由ではなく、何かしらビジョンがあって離職していく人たちでした。辞めた社員とも普通に連絡を取り合える関係です。
実は自社での採用の際にも、学生によくこの話をしているんです。私たちの「ありのまま」として、情報を開示しています。
学生の将来を考え、ありのままの姿で向き合うグローアップの採用
採用のサポートを専門に行うグローアップ。普段から採用事業を提供する同社に、その客観的視点で「グローアップの採用」についてお話しいただきました。
グローアップではどのような採用・育成活動を行っていますか?
末松氏:
人によって変わりますが、面接回数は通常4回で、その間に座談会などを挟んでいます。スケジュールは学生に合わせるようにしています。地方の学生であれば本来2日間で行うスケジュールを1日にまとめたり、スカイプでの面談を行ったりもします。あとは自社サービス『キミスカ』を活用してコンタクトを取るようにしています。適性検査も『キミスカ』上で行ってもらっていますので、一般的なSPIなどの学力検査は行っていません。どちらかと言えば、直接学生に会って価値観のマッチングを見極めることを重視しています。それを見極めるにあたって、質問を繰り返し行い内容を深堀りしていきます。人によっては永遠に続くんじゃないかっていうくらい(笑)。
たとえば「起業したい」という学生に対して、「なんでそう思ったの?」というところから、「こうする場合もあったんじゃないの?」と天秤にかけるような質問をすることもあります。決まりきった質問というのはないんですが、傾向としては「将来どうしていきたいか」についての質問が多くなりますね。
将来というのは別にグローアップでのキャリアに限ったことではなくて、その学生が「これからどうなりたいのか」という広い視点での将来を指しています。もちろん、今までの経験からその人の価値観やビジョンなどのヒアリングもします。ですが、社会人としてうちで働くにあたっては、「こうしたい」という明確な思いがあったほうが行動的になれると考えています。こういった考え方から、その思いをこの先どう活かしていきたいのかを重点的に聞くようにしています。特にマネージャークラスの面談になると、その点をさらに重視してヒアリングするようにしています。
また、入社意欲の高い学生との接点を維持するため、選考中や内定後にもこまめに座談会を設けるようにしています。座談会は1回当たり学生1人と社員2人で行っています。カジュアルな面談ですので、社員にも学生にも基本的に好きなことを話してもらっています。
アサインするメンバーも人事に限らず、学生に合わせてさまざまな部署の人に出てもらっています。ですので、アサインする社員2人が全く違う部署、ということもよくあります。
座談会の意図は、学生のために社内の様子を知ってもらいたいというのはもちろんですが、うちの社員同士のフランクさを伝える、という側面もあります。主に学生から質問をもらって、それに社員が答えていくというスタイルをとっています。ヒアリングした情報は人事にも共有してもらっていますが、実際のところ選考とはほとんど関係がないです。
もちろん、前提として「採用」を専門にしている会社なので、部門に関わらず誰がアサインされても滞りなく座談会が進められる、という良さを活かしています。
また、入社後はまず3日間、会社の理念や営業をするうえでのマインド、人材業界についての基礎研修を座学で行っています。毎年、講師にはもともとうちの役員で独立した方に来ていただいています。また、外部のビジネスマナー研修を1日かけて受けに行く機会も設けています。その研修では、「働くとはどういうことか」というようなマインドや、目標の立て方を重点的に教えています。
全体での研修はその4日間で、そのあとはすぐに現場に入り、実務を覚えていくような流れです。内定者を学生のうちにインターンとして採用することも積極的に行っているので、実務に関してはスムーズに対応できているかもしれません。もちろん内定者インターンは強制ではなく、シフトも自由に組んでもらっています。
渕田氏:
基本的に新卒はほぼ全員、フィールドセールスやインサイドセールスの配属となります。実務の研修では、「どの時間帯にどう時間を使って電話をすれば効果が出るのか」「トーク内容をブラッシュアップするための考え方とは」「数字の追いかけ方」というようなことを教えて、一人前の営業マンになるためのPDCAの回し方などを身に着けていってもらいます。私も同じ研修を受けていますが、研修でまず言われるのは「数から質を生め」ということですね。
このように実務面では、まずは営業として独り立ちしてもらうというところにフォーカスをあてて研修をしています。
就活ルールが変わることの影響は?採用の専門家が語るこれからの採用
経団連による就活ルールの適用が21卒から廃止となり、採用市場が大きく変わると予想されます。企業・就活生はどのように動くべきでしょうか。
末松氏:
就活の市場は徐々に「個」にフォーカスしていくと考えられるので、そのようなことを意識すると良いと思います。ただ、意外とこの事実を知らない企業や学生が多いのが現状です。確かにルールは大きく変わりますが、これを機に実際の採用活動のプロセスを大きく変えていくことはあまりないと思うんです。
就活生から見ると、やはり魅力的な制度や給与などに引き付けられる側面もあると思います。ですが、だからこそ企業側が「自分たちはどうしていきたいか」というビジョンを強く打ち出して、本質的な共感を得ていくことが大事だと思います。
採用プロセスで1番に変えるといいのは、現場の人が採用に関わることだと思います。何をしているのか、どういう思いで働いているのか、というリアルを伝えていくことでミスマッチを減らしていくことも可能です。また、一括採用が崩れる以上、人事だけで採用を行うというのは実質的に難しい時代だと思います。
ちなみに、『キミスカ』の機能である適性検査は、導入企業の社員の方にも5名まで受けていただくことができます。この情報をモデルケースにして、似たような値を出している学生にアタックするなど、採用のヒントとして活用していただけます。
私たちの新たな取り組みとしては、Twitterで個人のアカウントの活用をはじめました。学生のより生に近い声を知ろうという目的です。実名と顔写真を出してやっているので結構恥ずかしいんですけどね(笑)
そこでは直接学生からの質問もよくいただくようになりました。「何社受けても内定をもらえる気がしません。どうしたらいいでしょうか?」「どうしても人前が苦手なのですが、面接は大丈夫でしょうか?」というような、匿名だからこその質問が多いです。他社の人事の方との交流もありますね。まだまだ試行錯誤しながらの活用ですが、うまく活用していこうと思っています。
渕田氏:
就活ルールがなくなることで、学生側も企業側も自由に表現できる幅が大きくなったと思います。だからこそ、学生が就活をするタイミングもその方法も「ありのまま」「自分らしく」活動していってほしいと思いますね。
まとめ
一時は社員が半減するような事態に陥っていたにもかかわらず、商品にフォーカスした事業部の見直しにより立て直し、自社を代表するサービスは必要に応じ潔く見直しを行う。こうしてさらに大きく飛躍していくグローアップと『キミスカ』。そのストーリーやビジョンが、結果として社員満足度の向上・離職率の低下につながっているようです。
さらに、採用を専門に扱うグローアップならではの、今後の就活市場に対する意見を伺うこともできました。今後の採用市場では、企業も学生も、「個」にフォーカスしたアピールがますます重要になってくるでしょう。