100名を目指し、いっときは57名まで拡充したものの、毎月のように職員が退職したという税理士法人町田パートナーズ。
行動規範の明確化と組織再編で、このピンチを乗り越え、売上を維持しながらも残業削減に成功した手腕を代表の町田孝治氏に聞く。
※記事提供:月刊プロパートナー
目次
事務所理念の浸透と行動規範を明確にする
「お客様の夢を全力で応援して実現する」。
これは開業当初から掲げている、税理士法人町田パートナーズの経営ビジョンです。
私たちは会計・税務・人事・総務面から、「上場したい」「少数精鋭の盤石な会社にしたい」など、お客様にさまざまな夢を語っていただき、それを一緒に実現していくための、あらゆるソリューションを持つプロフェッショナル集団です。
しかし、開業当初は理念を掲げつつ、〝高い目標に挑戦して、自分の力を試したい〞という気持ちもあり、「10年で100名」を目指して10カ年計画を立て、それを実行するために、数字目標を追いかける日々でした。
問題だったのは経営理念をもとにした、行動が明確でなかったことです。
規範がなければ、職員の判断基準もバラバラな状態。
このピンチを、理念経営と組織編制で立て直し、現在は仕事量が増えても、お客様を全力で応援できる組織づくりに注力しています。
代表人生 3つのしくじり
しくじり1
2010年 従業員:13名
「10年で100名事務所」という高い目標に向けて〝組織〟を意識せず猪突猛進
高い目標に挑戦して、自分を試してみたい気持ちから、理念とはあまりリンクしない数字目標を設定。
日常の大半は数値目標を追いかける日々。
しくじり2
2010年~2015年
理念はあるけど行動計画は職員任せ。
判断基準がなく戸惑う職員
教育やサービスの標準化をしなかったため、上司によって仕事のスタンスやアプローチが異なり、部下は困惑。
2015年 54名
事務所の核となる職員の退職
事務所の核となっていた職員が退職。残された職員にとっては業務ボリューム、クオリティ、精神的損失など、すべてにおいて大打撃。
しくじり3
2016年~2017年 従業員:32名
退職者が続出……
所長自身も担当件数55件。
事務所内に漂う不穏な雰囲気
これまでスキル重視で採用していたため、「サボってもバレないのに、頑張る意味あるの」など、職員が不平不満を口外し始め、事務所の雰囲気は最悪に。
退職者が増えれば増えるほど、所長の担当件数も増えて55件担当することになり身動きがとれない状態に。
2017年 従業員:32名
良かれと思ったことが次々と裏目に。
埋まらない職員との溝
仕事を楽にしようと体制の変更を提案するものの、「できません」と言われることが多く、ベクトルがバラバラに。
職員と寄り添うために、性格傾向別のコミュニケーションをとることを意識。
第2の創業
2018年 27名
経営方針をもとにビジネスモデルの見直し&行動計画管理
規模の縮小をきっかけに、原点に立ち返る。
理念に合った事業を見直すことに。
職員には事務所のビジョンを伝え続け、理念経営を本格的に始動。
10年で100名事務所
数字に囚われた魔の7年
高い目標に挑戦して、自分を試したい気持ちが強すぎたのかもしれません。
「10年で100名事務所」という目標を2010年に立てました。
これが、後に起こる数々のしくじりの元凶です。
計画自体が失敗だったのではなく、2006年の開業当初から掲げている「お客様の夢を全力で応援して実現する」という理念を、どうやって行動にうつすか現場に任せっきりにしたことが失敗でした。
事務所としての判断基準がないため、人間性を重視する職員もいれば、効率を追求する職員もいましたし、コンサルティングに主眼を置く職員もいました。
理念は頭のどこかにあっても行動はバラバラでした。
しかし、10年で100名にするという数字目標はとてもわかりやすく、それに向けた動きは職員もとりやすかったんです。
ですから、統一性のないやり方であっても、目標は達成していたので何の問題も感じていませんでいた。
しかも理念に魅力を感じてくれる人もそれなりに集まっていたので、「これでいいんだ」とさえ思っていました。
スキルの高い人を即戦力として採用し、事務所が順調に拡大していく中で、数字目標ばかりが一人歩き。顧問先件数が30件増えると一人採用、を繰り返すうちに、次第に「あと一人増やせば顧問先を30件増やせるぞ」という感覚に陥っていました。
職員が増えていき、成長スピードを感じる半面、現場は回らなくなっていました。
さらに、これまで人間性よりもスキルを重視して採用していたため、スキルはあっても不平不満をもらして周囲に悪影響を与える人がいたようです。
教育体制・業務の属人化
退職連鎖のはじまり
職人の集団でしたから、上司が変われば大切にするポイントやお客様へのアプローチ方法も変わってしまい、教育やサービスの質も標準化できていませんでした。
そして、ついに、職人集団の限界が訪れました。
57名まで増員した2016年のことです。
事務所の核となる職員の退職を期に、退職者が後を絶たなくなってしまったのです。
引継ぎをやったと思ったら、また引継ぎ。
毎月誰かが辞めていくのを止めることもできず、私自身も担当顧問先を55件程もつようになりました。
そうなると、私自身の時間を確保することができず、身動きのとれない日々。
目の前のことをこなすのに精いっぱいで、先のことなど考えられませんでした。
そんな中、かねてから学びを得ていたワールドユーアカデミー主催のカナディアンロッキーでの登山研修があることを知り、思い切って参加しました。
これが窮地から抜け出す転機となったのです。
原点に立ち返り再起を図る
険しい山頂を目指すのは、過酷でしたが、大自然の雄大さはもちろん、自分の人生や会社経営についても多くの学びがありました。
まずは残ってくれている職員の負担が増えるのを抑えるため、仕事の枠組みを変更しました。
資料作成から面談まで一人で担当していたのを、資料作成まではアシスタントが担当。
さらに、生産性を高めるITツールを積極的に導入しました。
結果、売上はほぼ変わらずに20名減少の危機を乗り越えたのです。
そして、休日出勤、深夜残業もほぼなくなり効率化を実現できました。
しかし、当初は職員から「面談資料なら誰でもできる簡単な仕事だと思ってるんですか」という返答が。
良かれと思って提案したのに、プライドを傷つけてしまい心底驚きました。
振り返ると、職員と私の仕事に対する考え方に隔たりがあったのだと思います。
そのため、職員の性格傾向を理解した上で、タイプによって話し方を使い分けました。
例えば、変化よりも同一性を重視する職員には、今よりも効率的になることを納得するまで伝えます。
変化をポジティブにとらえる職員には、ワクワク感を伝えるようにしています。
また、今までは私一人で方針やサービスを考えるトップダウンでしたが、幹部をとことん話し合うことを意識すると、スムーズに事が運ぶようになりました。
働くモチベーションと理念を動機づける
事務所経営で最も大切なことを再認識する決定的な出来事がありました。
それは、少し落ち着いてきた2018年の秋に幹部職員数名と研修の一環で屋久島登山に行ったときのことでした。
上司部下という関係性を忘れ、助け合いながら山頂を目指しました。
そのときに本音でとことん話そうという飲み会をしました。
「理念が好きだから入社したんです。もっと理念の話しをしてください」と、幹部職員が告白してくれたんです。
私たちはお金を稼ぐために生まれてきたんじゃない、理念・ビジョンがすべてなのだと確信しました。
現在は、すべての行動、判断、プロジェクトの意義は、理念に沿っているか、とことん職員と話し合っています。
軸からブレていないか、精査することで結果的に無駄も省け、生産性も上がってきていると思います。
会計事務所の根幹となる申告書作成業務は最適化を進めています。
さらに、会計事務所の枠を超えて中小企業を元気にする。
そのサポートを全方位で対応できるのが、町田パートナーズが存在する価値です。
お客様には私たちにあって、安心感や心強さを感じてもらいたい。
そのためには何ができるのか。
これをモチベーションに、職員がいきいきと働くには、やはり理念の浸透と制度を整えることが重要です。
現在は、単純な規模拡大を手放し、質を高めて高付加価値業務へ注力するビジネスモデルに転換。
プロジェクトごとに課題解決に取り組み、「お客様の夢を全力で応援して実現する」をどう体現するか、に重きをおいてそれぞれが役割を果たします。
ビジョン経営のサポートや、人間関係の課題解決などさまざまですが、その取組みの一つが、仕訳の自動化ツール「ちあロボ」です。
今後、さらにサービスを充実させ、エネルギーの高いプロフェッショナル集団にしたいと思っています。
しくじりから学んだ教訓
教訓① ビジョンを行動に落とし込む
自分たちがどこへ向かっているかを明確にするものが経営方針・ビジョンで、実現していくための具体的な戦略がミッションだ。
事務所としての行動規範を常に伝え続けること。
また、職員一人ひとりが理解して活動するために目標管理と進捗を月に一度、職員と面談して把握する。
教訓② 職員の性格傾向を把握せよ
変化よりも同じ作業を繰り返すことを好む性格もいれば、新しいことに挑戦したいと思う性格の人も事務所の中には存在する。
そのため、性格傾向によって話の切り口を変えて伝えること。
町田 孝治氏
税理士法人町田パートナーズ 代表
創業/2006年9月
従業員数/27名
所在地/東京都港区芝3-43-15
記事提供
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